福岡民報2004年12月号投稿
新たな段階に入った福岡市・人工島−−
巨額の税金投入を続けていいのか、住民投票で市民に問え
博多湾の人工島事業は市民の反対世論に逆らって強行着工され10年がたちましたが、いま重大な破たんに直面しています。ところが、山崎広太郎福岡市長は「市民の将来のため」などと言って、人工島事業を続けています。そして、その破たん穴埋めに巨額の税金を投入し、財政を危機におとしいれ、暮らしや福祉・教育にかかわる予算をバッサリ切り捨てる危険な道へ突きすすんでいます。
このまま人工島をすすめれば福岡市はどうなるのかを検証し、なぜいま住民投票が必要かを考えたいと思います。
人工島はいま
人工島は、総事業費約4600億円をかけて約401ヘクタールを埋め立てる計画ですが、現在の進捗(しんちょく)率は53%です(図参照)。第3セクター博多港開発株式会社の2工区(北東部)は埋め立て中、福岡市工区のうち北西部は外周の護岸だけ、南西部と2つのふ頭は着工もしておらず、海のままです。事業費で見ると、これからまだ2100億円以上を投資する計画です。
「市直轄化」に399億円の予算
市長は、この12月議会に人工島関連の補正予算を提案しました。399億円という異例の超大型補正です。
これは、人工島北東部(博多港開発2工区)の埋め立て工事を、これまですすめてきた第3セクター「博多港開発株式会社」に代わって市が直接おこなうためのもの。いわゆる「市直轄化」です。399億円の借金をして市が買い取り、さらに300億円かけて埋め立て工事を続けます。この約700億円の借金はできた土地を売って返済するという計画です。
完全に破たんしているのに、市がむりやり埋め立てを続ける新たな方針を打ち出したもので、人工島問題は新たな段階に入ったと言えます。
破たん救済くりかえす
そもそも人工島事業は、はじめから必要性も採算性もなかったわけですから、破たんは当然です。
開発行政を批判して当選した山崎市長は2000年、「大規模事業の点検」をしましたが、人工島については、市民の期待を裏切り、当初計画で問題なしとして埋め立て事業を継続しました。
その2年後、博多港開発は、初めて売りに出した土地の買い手がつかずに、収入の見込みが立たず、銀行の一部から融資の停止を受けたのです。博多港開発の経営破たんが表面化しました。
そこで市長は、博多港開発の破たんを救済するために、当初計画を大幅に変更する「新事業計画」を策定。その内容は、市が土地を買い上げる、緊急融資をするなど、2千億円の公金を投入するものです(表1)。「人工島はつくった土地を売って事業費を取り戻す独立採算の事業。税金は使わない」としてきたそれまでの説明は完全に崩れ去りました。
(表1) 博多港開発(株)への公金投入「新事業計画」 |
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道路や下水道整備 | 340億円 |
土地買い上げ | 407億円 |
鉄道の導入 | 250億円 |
中央公園・緑化フェア | 90億円 |
増資 | 30億円 |
緊急融資 | 200億円 |
市住宅供給公社による土地買収 | 600億円 |
総額 | 2000億円 |
そのうちすでに200億円が使われた。 さらに、市民病院・子ども病院の統合移転 650億円 |
2千億円の公金投入
この新事業計画をもとに今、開発工事がすすめられています。香椎側から人工島に入るとすぐに見えてくるのが建築中の中央公園。福岡ドームの3倍もの土地を市が買い、18億円の施設もつくり、都市緑化フェアというイベントも誘致しています(05年開催)。この公園には問題となったケヤキと庭石も使われています。1本100万円のケヤキは、植栽にも1本あたり37万円かかるといいます。
新病院計画は、市立のこども病院(中央区唐人町)と市民病院(博多区吉塚)を統合して人工島に移転するものです。患者や地域住民から不安と批判の声があがっています。
さらに問題なのは小中学校建設です。人工島の人口も児童数も全くわからないのに、住宅地の真ん中に学校をつくろうとしています(82億円)。人工島の破たん穴埋めに教育予算までつぎ込むのですから、異常という他ありません。
まさに「金食い島」
博多港開発は、土地を売った収入で銀行からの借り入れ金を返済する計画です。民間では積水ハウス・福岡地所グループが昨年に初めて買いましたが、1平方メートルあたりの平均単価は7万900円で、市が考えていた価格の約6割。こんな安売りでは大赤字です。
この破たん救済にこれまで280億円の税金が投入されました。それでも博多港開発は昨年度50億円の赤字となりました。そこで市長が打ち出したのが「2工区の市直轄化」です。
人工島関係で市が抱える借金は1千3百億円にもなり、税金投入がどこまでふくれあがるかわかりません。マスコミも「金食い島」と書かざるをえない状況です。
なぜ、そこまでして
博多港開発2工区の埋め立てを続けられなくなると銀行は融資を取り戻せなくなる、確実に返済されるよう市が責任を取れ、というのが銀行の要求です。銀行は、当初計画を認めて投資してきたわけですから、その破たんの責任を負わなければならないはずです。巨額の利子で儲けておきながら、責任は取らないというのに、市長は銀行の要求に屈して、その利益を最優先で守ってやるということです。
港づくりも破たん
福岡市は、人工島西半分の市工区についても、埋め立て完成予定を10年間先延ばしする見直しをしましたが、それでもなお埋め立てる必要があるのかが問題です。
商社や輸送関係企業向けの港湾関連用地について言えば、すでに売りに出している用地も売れずに港湾局職員が東京や大阪にまでセールスに歩いて四苦八苦、人工島の隣の香椎パークポートでも何年も売れずに残っている土地があるほどで、新たに45ヘクタールもつくる必要があるでしょうか。
ふ頭についても、大型コンテナ船の入港は昨年141隻と4年前と比べて半減しており、今あるふ頭で十分対応できる状況です。この借金返済が終わるのは、なんと59年後の2063年です。
全国的にムダな公共事業の見直しがすすめられるなか、福岡市の異常さはきわだっています。
市長に見直しの資格あるか
2度も計画が破たんし、その穴埋めに巨額の税金をつぎ込む山崎市長に、またも見直す資格はありません。「社会経済情勢の変化に対応して」などという言い訳は、逆に先が見通せないことを語っているに過ぎません。
12月議会で、日本共産党の原田祥一市議が「市長は市民に謝罪すべきだ」と迫りましたが、市長は「お詫びを言わなければならないものではない」と開き直りました。
市民無視のこんな市長に代わって、人工島をこのまま続けていいのかどうか、市民がみんなで考えて、みんなで決める——今まさに住民投票が求められています。
ケヤキ・庭石事件 利権あさりの舞台に
ケヤキ・庭石事件は、02年9月、日本共産党に届いた内部告発をもとに徹底して追及し、市民の大きな批判がわきおこりました。10億円のムダづかいと利権あさりに、県警が1年がかりで捜査。今年11人が逮捕、元助役の志岐眞一元博多港開発社長、大庭樹元常務、西田藤二元市議が起訴され、10月の初公判で志岐、西田両被告は起訴事実を認めました。ケヤキと庭石の取引から西田被告のファミリー企業が4億円ちかい転売益をあげ、それが自民党の選挙資金に使われていたことなどが明らかになりました。
党市議団は、議長に対し、議会に百条委員会を設置して関係者の証人喚問をおこなうことなどを申し入れました。
借金財政 ツケを市民におしつける
開発行政のもとで借金はどんどん増えて2兆6849億円、市民一人当たり194万円です。外郭団体などの「隠れ借金」も706億円あります。
ところが山崎市長は、借金財政に反省なく、責任も取らずに、人工島には湯水のように税金をつぎ込む一方、「財政健全化」の名で市民生活関係の予算を削っています。
そして、これまでとはケタ違いの市民負担増・福祉切り捨てプランを打ち出しました。それが「市政経営戦略プラン」と「保健福祉総合計画の見直し」です。検討中のものを全てあわせると年間50億円をこす市民負担増になります(表2)。
(表2) 福岡市の市民負担増・福祉切り捨て計画 |
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▼市民負担増 |
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家庭ごみの有料化1枚60円なら | 30億円 |
下水道使用料値上げ | 4.5億円 |
留守家庭子ども会の父母負担増月 6000円で | 7億円 |
▼福祉切り捨て |
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市立保育所の民営化 (来年度、板付保育所の民営化が強行されようとしている) | 7億円 |
老人医療費助成制度の廃止 | 13億円 |
敬老金・敬老祝品のカット | 3.8億円 |
障害者無認可作業所への補助金カット | 3千万円 |
(いずれも年間。市の資料をもとに党市議団が試算) |
人工島やめれば、市民の願いかなう
人工島をきっぱり凍結すれば、借金を増やすこともなく、税金をムダづかいすることもなくなります。そうすれば市民のさまざまな願いの実現に道が開けます。
教育予算を増やせば全学年で30人学級が実現できます。他の政令市では100以上ある児童館を校区につくってほしいと運動が広がっています。保育所や特別養護老人ホームの待機者は増え続け、市営住宅の募集倍率は18倍。急いで増やすべきです。中小企業向け官公需は5年間で175億円も減。地元業者の仕事づくりと雇用拡大はまったなしです。
どうしても人工島のムダづかいをやめさせなければなりません。
市民の声にこたえがんばる日本共産党
これまで山崎市長を支持してきた人たちや保守層を含め幅広い市民のなかで、人工島を最優先する市政に対する批判の声があがり始めています。市が各校区で開催したごみ・リサイクル説明会でも町内会役員などから「人工島ではムダづかいして、ごみ袋で庶民からカネを取るとはどういうことか」という意見が出されたといいます。
日本共産党は、自然破壊と税金ムダづかいの人工島事業に一貫して反対してきました。党市議団は国土交通省や総務省となんども交渉し、議会ごとに人工島問題を取り上げ、市長追及の先頭に立ってがんばっています。市民から激励が次々寄せられています。
市長といっしょになって人工島を推進している自民、公明、民主、社民の各政党の責任も厳しく問われます。
住民投票条例求める運動の成功を
人工島事業の継続の賛否を問う住民投票条例を求める直接請求運動が始まりました。12月11日のキックオフ集会には会場に入りきれない250人がつめかけ、1万人の「受任者」(署名を集めることのできる人)で10万人をこす署名を集める目標を確認しました(署名期間は1月24日ごろから1ヶ月間)。この大運動を成功させるため、幅広い市民、さまざまな団体、そして党支部のみなさんと力をあわせてがんばりたいと思います。
日本共産党福岡市議団事務局長 中条正実
1993年 | 計画決定 | |
1994年 | 埋め立て工事着工 | |
1998年 | 推進してきた桑原市長が落選。当選した山崎現市長は「開発からの転換」を公約 | |
2000年 | 山崎市長が大規模事業の点検で人工島は「計画に問題なし」として継続 | |
2001年 | 博多港開発の銀行団の一部が「土地売却の見通しなし」として融資ストップ | |
2002年 4月 10月 | 当初計画の破たん救済に総額2000億円の 「新事業計画」 ケヤキ庭石事件発覚 | |
2003年 5月 11月 | 市が博多港開発へ45億円の緊急融資 「トトロのまち」構想が破たん | |
2004年 2月 4月 9月 12月 | 博多港開発工区の再見直し 2工区直轄化の検討始める 人工島の小中学校建設予算 直轄化の399億円起債(借金)予算 |