議会と自治体 2004年5月
抜本見直ししかない博多湾人工島事業
党福岡市議団幹事長 原田 祥一
市民を裏切り新市長も人工島事業推進
財政事情にも後押しされて、福岡市でも公共事業の総額は減少傾向にあります。ところが、そのなかでも際だっているのが増事業費4,600億円を要する人工島事業です。着工から10年、いま開発の破綻を巨額の税金で穴埋めしながら、必要もない埋立てが継続されています。
人工島建設は、「アジアの拠点都市づくり」を掲げる前市長の手で1989年に計画されました。博多湾の奥部を401ヘクタール埋め立て、国際コンテナ港湾を整備するとともに、人口1万8,000人の住宅地とサイエンスパークなどをつくる、というものでした。港湾用地は市が整備し、住宅地や産業用地を市の第3セクターである博多港開発㈱が担当、航路や岸壁を国が整備する計画です。
これにたいし、島の背後地にあたる和白干潟は国際的な野鳥の宝庫であり、自然保護団体など国内外から埋立て反対の声が寄せられ、91年には12万筆にのぼる反対請願が出されました。党市議団は住民団体とともに運動し、議会でも自然破壊に加え、埋立ての必要性も計画の実現性もないことを追及しました。
しかし、市長とオール与党議会は世論を押し切り、94年に埋立てを強行着工したのです。その後、あまりの開発優先市政に市民の批判が集中し、98年にオール与党推薦の現職が破れるという、市長交代劇が起こりました。ところが、開発市政を批判し、当選した現山崎広太郎市長は、「大規模事業の点検」なるものをおこないましたが、人工島については「計画は妥当、採算はとれる」として、市民を裏切り、人工島事業を継続したのでした。
事業破綻と連発される市の救済策
開発破綻は、その2年後に顕著になりました。博多港開発㈱に融資してきた14行の市中銀行のうち、新生銀行など3行が人工島の土地処分や採算性に疑問を抱き、新たな融資を停止したのです。こうして銀行団との協議が開始されますが、この時点で博多港開発㈱は事実上、経営破綻の状態にあったといえます。実際に、人工島担当の部署(アイランドシティ事業部)は市港湾局庁舎内に引き上げられ、同時に、銀行団との交渉を担当したのも市港湾局でした。
秘密裏に総額2000億円の税金投入を決定
この交渉は、議会にも市民にも知らせず、秘密裏におこなわれた結果、02年4月、島の半分にあたる博多港開発工区の「新事業計画」なるものがつくられました。その内容は、税金・公金を2,000億円以上も投入するという、おどろくべきものでした。
本来、開発会社の負担ですべき道路や下水道などインフラ整備を、市が肩代わりすることで340億円、必要もない総合公園など売れない土地の買い上げ407億円、鉄道の導入250億円、総合公園整備と都市緑化フェア90億円、このほか30億円の増資と、資金不足に対応する200億円の市による緊急融資、などです。さらに、市住宅供給公社による用地買収は600億円になるなど、全部合わせると、税金・公金の投入は約2,000億円にものぼるものでした。
これは、「人工島事業は独立採算の事業であり、税金をつかうことはない」(住民説明会での当局の説明)とした当初の約束を反故にするやり方であり、市民から強い批判の声が出たことはいうまでもありません。
土地処分計画の破綻
新事業計画は、破綻救済に税金を投入するというものであると同時に、それ自体が実現性のない、無理な計画でした。銀行との関係では、土地が処分できたときに、それに見合う額を銀行に返済することが以前の約束でしたが、この計画によって、年次ごとの約定返済が取り決められたのです。こうして、計画初年度の02年に177億円、03年に267億円、04年に158億円などの返済計画が組まれました。
しかし、これは土地が予定どおりに売れることが前提であり、収入が計画どおりに入らなければ成り立たないのです。党市議団が指摘していたとおり、半年後には早くも計画が破綻し始めました。15ヘクタールの総合公園用地の処分で170億円の収入を当て込んでいたのにたいし、実際は126億円しか入らないことがわかったのです。
これは、計画では公園用地の1平方メートルあたり処分単価を11万3,000円としていたのが、補助金を出す国土交通省が計画にストップをかけ、82,500円の単価で査定したからです。もともとこの用地は処分単価が周辺地価とくらべても高すぎるうえに、道路も何もない、路線価のつけようのない雑種地です。当然の結果でした。
このため、銀行への返済資金に不足をきたし、03年5月、市は博多港開発㈱に、45億円の緊急融資を発動しました。博多港開発㈱には、この緊急融資を返済する資力はありません。そこで福岡市は、今度はこの45億円に見合う救済措置を打ち出します。それは、6本の幹線道路を都市計画道路として、公共整備することを決め、強引に都市計画決定するというもので、この道路の用地購入費が返済財源となるというものでした。緊急融資とは名ばかりで、まさに税金による第3セクターの破綻救済でした。
住宅地分譲結果で新事業計画の破綻が決定的に
新事業計画の破綻をいよいよ決定的にしたのが、初の民間への住宅分譲でした。03年度におこなわれた住宅地の提案公募に応募したのは4グループでそのうち、積水ハウス㈱と地場デベロッパー大手の福岡地所㈱による企業グループが最優秀提案者とされました。これには、公募の前から当選者は決まっていた、との情報も寄せられています。
同グループとの売買価格にかんする協議に、市や博多港開発㈱そして住宅供給公社はかなりの日時をさきました。なぜなら、初の民間への分譲となる今回譲渡価格が、今後の民間分譲単価の相場を決めることになるからです。しかし、福岡市や博多港開発㈱の思惑どおりにはいかず、民間企業のつけた単価で押し切られるかたちで価格は決まりました。
年度末の3月、10.7ヘクタールの土地が76億4,000万円で売却されることとなりました。1平方メートル当たり単価は7万9,000円です。市や博多港開発が想定していた住宅地の処分単価は12万1,000円ですから、予定の58.5%にしかならないものでした。
新事業計画では、会社2工区をふくめ、全体の土地処分収入を2,071億円を見込んでいました。今後、仮に今回の相場で土地が全部売れたとしても、収入は1,211億円にしかなりません。これでは、銀行への元利償還合計2,348億円はおろか、事業費の1,607億円すら割り込むことになります。しかも、住宅用地は初の民間売却となったものの、産業用地については民間売却の話はまったくすすんでいません。
さらなる税金投入の「新・新事業計画」策定へ
こうしたなか、みずほ信託銀行など5行が新規融資をストップする検討を始め、市はまたも計画の見直しを迫られることになったのです。同時に、博多港開発㈱の破綻救済を避けるために42億円の追加融資が決められ、1年間で200億円の緊急融資枠のうち、87億円を使う事態となりました。博多港開発㈱はそれでも約400億円の単年度欠損が見込まれています。
福岡市は現在、「新・新事業計画」の策定作業をすすめています。そでに、一部は議会にも明らかにされていますが、その内容は、これまた税金の投入であり、なかには現実性のない突飛な発想まで出てきています。
たとえば、市民や企業に土地を買ってもらって、その土地を誘致企業に貸し出す「市民トラスト」や「土地の証券化」です。さらに、埋立て途中である会社2工区(事業費710億円程度)の市による直轄事業化まで視野に入れて検討しているのです。
いずれにせよ、3セクの開発破綻を市が公金で救済することが前提であり、マリコンや銀行のもうけはきちんと保障されるのです。福岡市は、まさに銀行団の要求に屈服していると言えるでしょう。
人工島事業は、2年前から都市整備局、土木局、環境局、保健福祉局など他局の予算も動員されています。体制も強化され、総務企画局にプロジェクトチームがつくられました。そして、新年度は、埠頭地区にある港湾局庁舎から、人工島関係の部局を市長のおひざ元である市役所本庁に移転しました。まさに、全庁あげての事業推進です。
市の港湾用地利用見通し立たず
では、港湾用地など、市が直接担当している埋立て地のほうはどうなっているでしょうか。
現在、1工区と2工区は土地ができあがり、4工区が埋め立て中です。しかし、3工区については、推進14メートルの航路にたいし、整合性のない15メートル岸壁計画のため、国が事業化を認めず、見通しの立たないままとなっています。
1工区にあるコンテナ埠頭は、昨年9月から稼働をはじめました。問題は、港湾関連用地など97ヘクタールにのぼる土地処分です。こちらは本格的な処分がはじまるのが04年度からなので、まだ、破綻の深刻さは表面化していません。しかし、現実には、ひどい事態がつくり出されています。
昨年9月、コンテナターミナルの隣接地が売却されました。相互運輸㈱とエバーグリーンジャパン㈱がそれぞれ、約5,000平方メートルと4,800平方メートルを取得したのです。これには、裏事情がありました。両社がそれまで持っていた箱崎埠頭の土地を、交差点改良と称して、すべて(2社合計で約9,800平方メートル)市が購入したのです。
借家用の社屋等ふくめ、支払った移転補償費は実に17億円です。人工島の土地を買ってもらうための強引なやり方であり、これも原資は税金です。国の補助金は交差点にあたる一部しか認められず、相当部分が市の単費でした。
96年から売却をはじめた隣の香椎パークポートでは、33ヘクタールの処分用地のうち、未だ11.4ヘクタールは売れ残ったままです。97ヘクタールにものぼる市の人工島用地の処分がゆきづまるであろうことは、だれが考えても明白です。
ケヤキ・庭石事件で明らかになった汚職・腐敗
内部告発と党の調査・追及で不正が発覚
「ケヤキ・庭石事件」は、私に寄せられた一通の内部告発から始まりました。それは、元市議会議員が圧力をかけて、博多港開発㈱に1本100万円もするケヤキを数百本と庭石を買わせ、その金は元市議が国政選挙に出馬したときの資金となった疑いがある、という内容でした。
調べてみると、博多港開発㈱は95年に200本、99年に300本、2001年に100本のケヤキを、そして2000年に庭石1万トンを購入していることが判明したのです。支出した額は9億6,000万円にものぼりました。しかも、工事仮勘定に計上してごまかしていたのでした。当時は、埋め立てに着工したばかりで土地の形状もなく、利用目的も定まらない購入だったのです。
衆議院選挙は購入直後の96年と2000年におこなわれており、自民党公認で出馬し、落選したこの元市議は、昨年のいっせい選挙で市議への返り咲きを準備していたのでした。私はこの問題を決算議会でとりあげ、「約10億円のむだ遣い」と追及し、元市議との関係をふくめ真相解明を要求しました。
当初、市当局は、「買ったことに問題はなく、価格も妥当」として、調査すらしないという態度でした。党福岡市議団は、ただちに購入先や圃場などの調査をおこない、ケヤキは切り出し価格の200倍であること、また、ケヤキの多くは、木の上部を電信柱のように切り落としており、使い物にならないことなどをあきらかにしました。
100条委員会設置、刑事告発へ
さらに、調査結果を逐次記者発表し、市長には調査を要求するとともに、議長に100条委員会の設置を求めました。はじめは、特別委員会の設置すらこばんでいた他会派でしたが、読売新聞による「元市議関係2社に転売益」とのスクープ報道や、関係会社の営業報告書をもとにしたわが党の裏付け追及で、特別委員会を立ち上げることになったのです。
しかし、特別委員会では当初、参考人として出席した博多港開発社長(前助役)と同社常務(元市幹部)は、「購入も価格も妥当」を繰り返し、元市議も「知らない」といっさいの関与を否定しました。このため、100条調査権を行使することを全会派一致で決定し、100条委員会に、元市議らを加え、関係会社役員の出席を求め、出金伝票をはじめ、金の流れのわかる関係資料の提出を求めました。
この結果、一部資料の不提出と出席拒否はあったものの、元市議のファミリー企業がなんと5億円近くも転売益をあげていることが判明したのです。元市議は同様に関与を否定しましたが、議会はこれを認めず、議員全員一致のもと元市議を偽証や文書不提出で県警に告発しました。また、関係会社役員は不出頭で、博多港開発の社長と常務は特別背任の容疑で同じく県警に告発しました。さらにその後、山崎市長も、特別背任で告発をおこないました。
改選直前の時期でしたが、わが党が終始リード役を果たしたことで、ここまできたのです。県警はその後、大規模な家宅捜索をおこない、現在も捜査はつづけられています。
わいろ受託、隠し口座発覚など、次つぎあきらかに
昨年9月には、港湾局計画課長が収賄容疑で逮捕され、今年に入って有罪判決が下りました。人工島の計画変更の業務委託をおこなった業者から、100万円相当のわいろをもらっていたというものでした。
しかも、これには、上司である港湾局理事も関与しており、検察の冒頭陳述では、理事が被告(課長)にたいして、「国土交通省との交渉に当たっている福岡市東京事務所の職員らにタクシークーポン券でも渡したいが入手できないか」と持ち掛けたとされています。被告はこれがきっかけで、同業者に金品を要求したというのです。
理事は10万円相当のクーポン券を受け取ったことを認めました。検察の陳述が事実なら、クーポン券というかたちで、金券等が市職員か、あるいは相手方である国土交通省の職員に渡されていた可能性があり、日常的におこなわれていたのではないか、との疑惑も浮上しています。
この2つの事件のほかにも、博多港開発㈱の隠し口座問題なども発覚しており、政官業癒着のもとで、人工島事業に関連しては、何がおこなわれているかわからないという、おどろくべき事態が広がっています。
事業を凍結し、市民参加による徹底した見直しを
開発破綻と汚職腐敗にあえぎながらも、「将来の福岡市に必要な事業」などとして、山崎市政は人工島事業を推進しています。新年度、人工島には他局の予算も集め、一極集中となる112億円(200億円の緊急融資のぞく)の予算をつけました。
一方、中小企業対策費は12億円、一般会計のわずか0.17%です。4,000人近い待機者を抱える特別養護老人ホームの新規建設分はたった3ヵ所で2億円です。また教育費は、就任依頼の連続減で、一般会計の6.6%にまで落ちました。保育所への補助金は昨年につづき、今年も1億円減額を強行しました。国保料は介護分2.25%の値上げ、さらに、家庭ごみ有料化まで準備しているのです。まさに「ツケは市民に」です。そればかりではありません。わずかばかりの基金・積立金を100億円も取り崩しての財政運営です。
こうしたなか、市民の間では、「人工島への税金投入はやめよ」の声が広がっています。人工島に反対する住民団体は共同して、新年度予算と埋め立て工事の凍結、第3者機関による見直しなどの請願をおこないました。マスコミもいま、人工島について「どうする金食い島」(「朝日」2月20日付)、「岐路に立つ人工島、山崎市長の責任問う声も」(「毎日」2月16日付)などと、批判や懸念の記事を載せています。
ケヤキ・庭石事件を受けて、山崎市長はみずからが博多港開発㈱の社長に就任しましたが、市長による「大規模事業の点検」も新事業計画も2年持たずに破綻しており、社長としての経営能力も市長としての資格も責任もないことが、いまきびしく問われています。
この市長の手による新たな事業「見直し」は、銀行などの要求に屈服し、市民にツケをまわすものであることは明白です。これ以上の税金投入は許されません。人工島ではこれまでに約半分の事業費がつかわれましたが、事業を継続して不良資産と借金を増やす必要はありません。
党市議団は、埋め立て工事を凍結して、事業継続についての是非を問う住民投票を実施すること、また、博多港開発をふくめ、すべての情報を開示するとともに、市民団体をふくめた第3者機関による事業の見直しを要求しています。