しんぶん赤旗 2002年1月22日〜26日
検証 博多湾人工島
1. 経営も構想も破たん。それでも福岡市は継続に固執
「このまま(人工島)事業を進めれば、最大の不良債権となる」——昨年10月、福岡市の決算議会で、日本共産党の原田祥一議員は山崎広太郎市長に警告し、埋め立て工事の中止と計画の縮小見直しを要求しました。
銀行も疑問視
その後、「人工島への融資停止、新生・鹿児島銀、採算を疑問視」(「朝日」昨年11月9日付)と、島の半分(約200ヘクタール)を担当する博多港開発(株)(市の第三セクターで社長は志岐眞一・元市助役)への融資を2001年度から両行がストップしていたことが報じられました。福岡銀行や福岡シティ銀行など地場銀行も今後の融資中止を検討しています。
日本共産党は「博多港開発は経営破綻の状況にある」「市費での土地買い上げなど市民負担の破たん救済は許されない」(原田議員、昨年12月議会)と追及してきました。
ところが、「造成三セク支援強化、増資、土地買い上げ」(「西日本」同12月28日付)、「金融機関側に鉄道導入も明示」(「朝日」同日付)などの報道にみられるように、福岡市は銀行団に対して事業見直し案を提示して融資継続を要請、事業をあくまで強行する姿勢です。
さらに、「3セク支援 福岡市方針」「150億〜200億円の低利融資制度を新設」(「西日本」1月16日付)と、直接融資まで検討する状況になっています。
反対署名は12万
博多湾人工島(401ヘクタール、総事業費4588億円)は1994年、野鳥の宝庫である和白干潟・博多湾の自然を守れという国内外の反対世論を押し切って桑原前市長が着工しました。
日本共産党は計画段階から必要性も緊急性もない埋め立てはやめよと主張し、住民団体とともに12万人の計画中止を求める請願署名を集めるなど、反対運動にとりくんできました。
その後、山崎市長の手で「大規模事業点検」が行われましたが、人工島は当初計画どおり継続とされ、現在までに約4割が埋め立てずみです。
博多港開発は今年、住宅用地の分譲を開始する予定。人工島は港湾関連用地のほか、サイエンスパーク用地、住宅用地、緑地その他で構成しています。
もともと港湾用地以外は、九州大学の移転による学術研究都市となる計画でした。ところが、九州大学は西区移転が決まり、学研都市構想は破たん。それにもかかわらず埋め立ては強行され、その後のサイエンスパーク構想はいまだに具体化されていません。
土地分譲の見通しが立たない最大の原因はここにあります。さらに、バブル後の地価下落と今日の不況が追い打ちをかけています。
しかも宅地の売却価格が高すぎ、売れ残り必至と指摘されています。
計画では、住宅用地(73ヘクタール)は平均単価が坪59万7千円、初年度は47万円とされています。近隣の住宅地、香住丘は坪30万円程度です。この価格で売れなければ事業は赤字となります。銀行が採算を疑問視するのも当然です。
無駄な埋め立て事業の推進をつづければ、ツケは大きくふくらんで市民にまわされることになるのは明らかです。ゆきづまった人工島建設を検証します。
2. 需要のない埋立地。売却話は市税投入ばかり
博多港開発は人工島建設で2000年度末までに753億円の融資を受けています。この内、政府(NTT)資金と日本政策投資銀行には5億円余を返済していますが、市中銀行へは1円も返済していません。
“自転車操業”
貸借対照表で経営状態を検証してみると、事業着手前は7億円程度だった短期の借入金が、返済が始まった2000年度は151億円、前年度(34億円)の5倍近くに一気にはね上がっています。資金繰りはまさに自転車操業の状態です。
一方、銀行は、公的資金の導入と、小泉政権の「構造改革」路線のもとで不良債権の処理を急いでいます。銀行側が、博多港開発を不良債権にカウントしていることは明らかであり、このため、担保を福岡市に要求しているのです。
もともと、資本金4億円の会社に1850億円の事業をさせること自体が無理だとの指摘もあります。
こうした中で福岡市は新たな出資、土地の買い上げ、短期融資など三セク破たんの救済策を検討しているのです。
では、港湾関連用地など市の埋立地はどうなのか——?
計画では全体で84.7ヘクタールを坪単価51万1500円で売却するとしています。
しかし、昨年9月に売却された箱崎埠頭の土地は坪単価47万1900円でした。しかも、地価は下落を続けています。
何より最大の問題は需要がないこと。1996年に売りに出した香椎パークポートは売れ残りを含め、未処分土地が16ヘクタール(全体は33ヘクタール)もあります。
福岡市は港湾関連用地のセールス先をどこにするか、思案を続けています。ガナス総合研究所に調査を依頼し、民間企業の研究会方式で検討してきました。
昨年3月の調査報告書は、港湾関連用地について、地域的には中国、タイ、マレーシアを想定し、(1)青果物、加工食品、冷凍食品、(2)繊維・雑貨、(3)家電の三分野に絞りこみ、課題として、各業界への支援策や港湾サービス機能の充実など新たな投資の必要性を強調しました。
しかし、いま物流は大きく変化しています。かつて青果物などは直接輸入し、埠頭で加工・処理され、卸・小売りの販売ルートにのりました。現在は海外で加工され、製品としてコンテナで輸入し、小売りにまわされます。
つまり、埠頭地区に倉庫や加工場が不要になっているのです。
人工島に隣接する香椎パークポート。ここも土地が売れ残っています。
無責任な報告書
この報告書は無責任にも、今後の動向について「現状では予測しにくいものも多い」としています。パークポートが売れ残っているはずです。
産業用地についても、その展望のなさは同じです。
誘致大企業への税の減免などを柱とする「IT特区」、島全体への「光通信網」整備などです。サイエンスパークでは公的資金を入れて先端医療施設をつくることが検討され、また、必要もない清掃工場用地を買う話もあります。市税を投入する話ばかり。これらは、4588億円の総事業費とは別の費用です。
3. 過大な港湾整備計画——貨物量は6年後倍加と試算
人工島は香椎パークポート同様、コンテナ貨物に対応した港湾づくりが行われています。
14メートル水深(5万トン級コンテナ船対応)岸壁が1バース、13メートル水深(4万トン対応)が2バース、大型コンテナクレーンなどが整備される計画です。
大型船も減る
人工島のコンテナ貨物は6年後の2008年に37万TEU(個)を取り扱うとしており、現在パークポートで取り扱っている量のコンテナが、そっくり増えるという計算です。博多港のコンテナが6年後に2倍化し、14年後には3倍化するという過大な計画です。
コンテナ取扱量はこの間、徐々にのびてきました。しかしその背景は、物流の変化と福岡市内や郊外の大型量販店の影響が大きいのです。
輸入コンテナの中心は消費物資であり、消費が伸び続けることが貨物が増える前提となります。消費不況の中、乱立による大型店の撤退にみられるように、すでにオーバーストア状態といわれる福岡都市圏で、コンテナ貨物が増え続けるという試算自体が異常といわなければなりません。
過大設備という意味はもう一つあります。
3万トン級以上の大型船の入港実績は1998年369隻、99年322隻、2000年294隻と、この間徐々に減っています。
いま増えているのは4〜5千トン級の船で韓国や中国からの小型コンテナ船です。
5万トン級以上の船はわずか年間90隻程度で、平均4日に1隻が入港する状況です。
二重の意味で過大投資
しかも、現実には12メートル水深の既存航路で6万トン級のコンテナ船が干潮時にも入出港しているのです。
香椎パークポートとその他既存埠頭の改良で、十分に対応できるのであり、14メートル水深の航路や岸壁等港湾施設は、まさに二重の意味で過大投資です。
かつて箱崎埠頭ができた時、須崎埠頭や中央埠頭の貨物や倉庫をシフトさせました。それで空いた土地を転用・売却し、料金収入では半分も取り返せない設備投資の費用を補てんし、新たな港も埋めてきました。
しかし、須崎埠頭のテレポート構想の破たんにみられるように、埠頭が都心の用地として再開発するなど、今日では容易なことではありません。
4. 和白干潟——楽園破壊、野鳥激減。市側は“影響軽微”というが
潮の干満で600〜300メートルにわたって現れる和白干潟。人工島は、野鳥の中継地として国際的にも重要な和白干潟の前面に、海をふさぐように建設されています。かつて見られたハマシギなどの大群が乱舞する姿は消えてしまいました。
福岡市の調査では、和白干潟を含む埋立周辺地区で1993年(秋季)99種2万3508羽を数えた鳥たちが、2000年には90種1万4036羽に減ったことが報告されています。
なかでも国際的に保護の必要性が強調されているシギ・チドリ類は、4925羽から1933羽へと激減しています。陸ガモ類など汚染に強い鳥は生き残ったものの、埋め立て工事の鳥たちへの影響は深刻です。
切り絵作家の山本廣子さんは、和白で生まれ育ち、「和白干潟を守る会」の代表として人工島建設に反対する運動をすすめてきました。
「昔はまったく見なかったアオサが、博多湾が次つぎの埋め立てられるなかで、ときどき大量発生するようになり、人工島の工事が始まってからは、毎年のように発生するようになりました」。山本さんは、和白干潟への影響を語ります。
腐って悪臭をはなつアオサ。付近の住民の要求を受け、市は除去作業を繰り返していますが、いまでは毎年3千万円もの費用がかかるほど大量発生しています。
山本さんは言います。「ヤマトオサガニ、チゴガニなどは、以前はものすごくたくさんいて、子どもたちにとても人気があったんですが、去年の夏は一匹も見つからず、とても心配しています。ハサミを振る姿が有名なハクセンシオマネキも数匹みかけただけです」
人工島埋め立てが博多湾の自然環境に深刻な影響を及ぼしているのは明らかです。
市の「環境影響評価レビュー」に対して昨年、環境省は干潟の重要性にふれて「生息環境については、将来にわたり適切な保全対策を講じる」よう、厳しい注文をつけています。
「博多湾の豊かな自然を未来に伝える市民の会」などの市民団体とともに、アジア湿地調査局や国際鳥類保護会議など、海外の自然保護団体もくりかえし工事の中止を求めてきました。
国内外の声に耳をふさぎ、「自然環境への影響は軽微」「環境の保全には十分配慮して進めている」と強弁してはばからないのが山崎市政です。
5. 継続は大借金に拍車。事業を中止し、市民本位に
人工島事業(4586億円)は着工以来8年。すでに2111億円の事業費が使われています。
市の負担は1兆円以上に
今後、このまま事業をすすめれば、土地の買い上げ、第三セクターの救済、基盤整備、さまざまな施設の建設費など、市の負担は1兆円ではすまなくなるといわれています。2兆5000億円もの借金をかかえる市の財政悪化にいっそう拍車がかかることは明らかです。
いま全国的に、大型公共事業の見直しがせまられています。第三セクターとして市も深くかかわった再開発事業「博多リバレイン」の破たん、公約に反しての国際会議場建設につづき、人工島建設をあくまで強行する山崎市長の姿勢は、その流れに逆行しています。
一方で、山崎市政は敬老無料パスや老人医療費助成を廃止・縮小し、福祉見舞金も廃止するなど市民生活を切り捨ててきました。
「行財政改革」の名で削られた市民生活に密着した予算は、3年間で52億円。来年度は、民間保育園への補助金(約16億円)を半額カットしようとしています。
人工島建設を継続するために、福岡市が銀行に低利融資すると報じられている額は、150〜200億円。「そんな金があるなら、高齢者や子どもに回せ」——これが市民の声です。
いま福岡市では、保育所に入りたくても入れない「待機児」が約700に急増しています。
特別養護老人ホームへの入居を待っている高齢者も、介護保険スタート直前から二倍以上に増え、約2900人にのぼっています。
命綱である国民健康保険証を取り上げ「資格証明書」を発行した件数は、政令市の中で最も多く、1万2000件にのぼります。
待ったなしの切実な市民要求にこたえるのか、ばく大な借金財政に拍車をかけるのか。日本共産党の原田祥一市議は言います。
「山崎市長の責任がきびしく問われている。今こそ、埋め立てを中止し、計画を縮小・見直すべきだ。破たんがあきらかになった株式会社・博多港開発は、増資や土地買い上げ、融資などで救済するのでなく、このさい整理・縮小する必要がある」
いま環境省は、博多湾を国設鳥獣保護区にし、和白干潟などについては、開発に規制をかけられる特別保護地区に指定するため、市や県と協議を進めています。
原田市議は、「竣工済みの埋立地は市民本位の活用を考え、埋め立て中の『擬似湿地』は、野鳥の棲息地や浄化機能の発揮などが期待されている。いずれにせよ情報公開と市民参加のもとで見直すべきだ」と語っています。