2007年2月9日
日本共産党福岡市議団は2月9日記者会見をひらき、議員の海外視察について、今期(2003〜06年度)の実態調査の結果を発表しました。
宮本秀国団長は、「市民が大増税や負担増、福祉きりすてに苦しんでいる時に、議員が100万円の税金で海外視察に出かけることが許されるのか、4月の市議会議員選挙の争点の一つとして問うていきたい」と述べ、改めて海外視察の廃止を主張しました。
記者発表の全文は以下の通りです。
税金による福岡市議会議員の海外行政視察の廃止を求めます
日本共産党福岡市議団
福岡市議会では、給料(歳費)や政務調査費とは別に議員1人100万円を上限として海外行政視察出張(海外視察)の予算を組んでいます(任期中1年度のみ)。日本共産党は現在参加しておらず、これまでも廃止・自粛などの抜本的な見直しを求めてきました。
しかし、今期4年の初めには「自粛する」とのべた会派まであったにもかかわらず、この4年で日本共産党をのぞくすべての会派、自民15人、公明8人、みらい福岡8人、民主5人、社民4人、平成会2人、ふくおかネットワーク2人、無所属1人の計45人、7割をこえる市議が海外視察に出かけました。
私たちは海外をふくめた視察一般を否定するものではありません。しかし、「景気回復」の喧伝とはうらはらに市民生活が苦しいなかで、とりわけ高額な海外への視察を、特別に枠を設けて、給与や政務調査費と別に税金でおこなうことについて疑問をいだかざるを得ません。
4年の任期がおわるこの時点で、我が党は海外視察問題をあらためて調査しなおしました。その結果をここに明らかにしておくとともに、廃止を重ねて訴えるものです。
【1】100万円という費用の高さ
この4年間総額で市議の海外視察の費用に4090万3922円、1人当たり90 万8976円(通訳料をのぞいても1回当たり79万8924円)の税金が使われており、100万円の上限をほぼ使い切る形です。中には民主市議の99万 9840円、平成会市議の99万9870円といった具合に“芸術的”な使い切り方をしている市議もいます(資料1〜4ページに議会事務局からの資料を掲載)。これらは国の法律に準じた市の「旅費支給条例」にもとづく「外国旅行」(26条)という扱いで支出されています。
普通の市民の海外旅行の平均費用は21万円(06年12月JTB発表)であり、「100万円は異常な高さだ」と疑問の声が市民からあがるのは当然です。
【2】行政視察なのかと疑いたくなる中身
福岡市議の海外視察は「今日、地方分権や国際化が進み、地方独自の政策判断が問われるなか、国内だけではなく、海外の実情や先進的な事例の把握がますます重要となっており、議員が海外視察を行い、国際的な見識、感覚を高めることは本市議会の政策提案機能や監視機能の強化に繋がり、本市の発展に貢献する」(監査委員報告03年10月24日)ものとしておこなわれています。
わが党の自粛・廃止の提案にたいし、他党が抵抗したさいの言い訳も「見聞を広めるのに役立っている」(社民)というものでした。
しかし、民間サラリーマンがリストラの恐怖におびえ身銭を切って「能力向上」に追い立てられているなかで、議員だけが単に見識や感覚を高めるという名目で100万円もの税金を使うことが果たして許されるでしょうか。
「海外行政視察」と聞けば、多くの市民は「政策提案機能や監視機能の強化」のための「先進的な事例の把握」などの具体的な調査研究を思い浮かべるはずですが、報告書や旅程表を調べてみるとそうした市民の想像とはかけはなれた実態が少なくありませんでした。下記はその一例です。
(1)教会・庭園・高山・フィヨルド……典型的観光コース
平成会の市議が06年5月にニュージーランドにいった視察は、モナ・ヴェイル(庭園)、大聖堂、マウントクック(世界遺産)、ミルフォードサウンド(世界遺産)とあり、「船でリアス式海岸、ミルフォードサウンド視察」(同市議の報告書より)といった調子のコースです(資料5ページに同市議の報告書を掲載)。
ミルフォードサウンドは1000メートルをこえる断崖絶壁に取り囲まれたフィヨルド(氷河の浸食によってできた湾)で数千の観光客が毎日訪れます。また、マウント・クックはニュージーランドいちの高山で、「醍醐味は、何といっても素晴らしい大自然の景観とその自然の織り成す様々なドラマです」(アオラキマウントクック村ホームページより)とあるように、いずれもユネスコ世界遺産に登録されたほどの絶景の名勝地です。同市議の「視察」は、歴史建造物と景勝地が並ぶニュージーランドの典型的な観光コースではないでしょうか(後述)。
(2)行政に話を聞いた後、観光地をめぐるパターン
行政に話を聞いた後で、観光地や景勝地をめぐるというパターンも少なくありません。
05 年10月の公明党市議らの欧州視察では「歴史建造物保護状況視察」と称してローマに行っています。報告にはローマ観光局を訪問して「説明を受けた」とありますが、説明はどこにもなく、「関係施設を視察」として「フォロ・ロマーノ」「コロッセオ」「コンスタンティヌス帝凱旋門」「サン・ジョヴァンニ・イン・ラテラノ聖堂」「サンタ・マリア・マッジョーレ聖堂」「サン・パオロ・フオーリ・レ・ムーラ聖堂」「カラカラ浴場」と名だたる観光地が列挙され、「保存状況」についての視察を反映した記述はどこにもありません。
これでは、行政への聴取は単に観光のための「言い訳」と思われても仕方がないのではないでしょうか。
(3)アンコール・ワットや歴史博物館「視察」
03年12 月のみらい福岡市議が行ったカンボジア・ベトナムの視察では、アンコール・ワット遺跡やベトナムの戦争博物館などを視察していますが、レポートには前者は遺跡の前での「記念写真」とおぼしきもの、後者は「歴史が良く解った視察であった」という3行程度のメモがあるだけです。
(4)ベルリンの壁や議事堂「視察」
福岡西方沖地震直後、玄界島島民が仮設住宅に移ったばかりという05年6〜7月の時期に、みらい福岡市議らは、ドイツに視察にいっています。ここでは報告書には「ベルリンの壁」や「帝国議会議事堂」が登場し、申請には「歴史建造物視察」となっています。レポートも建物の歴史を各A4で1枚程度に書いたもので、本市のどのような施策に生かされるのかまったく不明であり、単なる観光ではないかと疑われても仕方のないものです。
(5)報告に出ない景勝地の「地方視察」
05年7月に自民党市議らが行った欧州視察では、議長に出した申請書などには有名な景勝地であるザルツカンマーグート(※)の「地方視察」が入っていますが、報告書には登場せず、そこで何が行われたのかはまったく不明です。(※「ザルツブルグの近郊にある、2000m級の美しい山々に囲まれた風光明媚な湖水地帯」=サイト Romantische strabe & Salzburg Wieより)
(6)ライン川「視察」
04年のゴールデンウィーク期におこなわれた民主・社民・みらい福岡市議の視察ではライン川の「視察」が組まれています。
旅程表には10時11分にマインツに列車で到着したあとの交通機関の記入欄は「空白」になっており、「到着後ライン川視察」とあるだけです。そこから6時間かけてリューデスハイムに着き、再び「列車」に乗っています。
マインツとリューデスハイム間は典型的な「ライン川下り」の観光コースであり、この時間帯に市議らが何を「視察」していたのか、やはり後日提出・公開されたレポートではいっさい明らかにされていません。
(7)ワイン祭りへの出席
06年6月の自民党市議の海外視察は、フランス・ボルドー市の「ワイン祭り」や焼酎展示・エステ実演をふくむ「福岡パビリオン」の視察などとなっています。レポートには「説明を受けながらワインの試飲を行った」と書かれています。これは単なる「交流」であって、「海外の実情や先進的な事例の把握」「本市議会の政策提案機能や監視機能の強化」という現在の海外視察の目的にてらしても逸脱したものだといわざるをえません。
【3】報告・レポートのずさんさ
海外視察にかかる費用は、費用弁償のなかでもとりわけ高額なものです。市民オンブズマンが海外視察などの改善を求めた申入書の中で視察の中身などについて「ウェブ上で公開するなど、だれでもわかるように市民に説明することは議会として最低限の責務」だと指摘し、翌月、市の監査委員も意見書を提出し、視察報告書の活用を市議会に求めました。
市議会の各派代表者会議の場でも市議自身、海外視察について「情報公開を前提として、誰が見てもおかしくない視察・調査を行うべき」(公明)、「市民に公開する方向で」(ネットワーク)とのべています。
ところが、市民が自由に議会図書室で閲覧できる視察報告書を見ると、ずさんなものが少なくありません。ケースによっては悪質きわまるものさえあります。
(1)そもそもレポート自体が存在しない視察
そもそもレポート自体が議会図書室の閲覧ファイルに存在しない視察もありました(旅費支給をもらうための旅程だけを書いた出張報告書はある)。
先述の平成会の市議が06年5月にニュージーランドにいった視察では、旅程と「目的」以外には写真があるだけで、レポート本体はどこにも見当たりませんでした。「旅程」には「モナ・ヴェイル〜大聖堂視察」「マウントクック世界遺産 Mr SEFTOの麗Kea Point H=956M迄登る。自然観察等観光政策の詳細を調査」「世界遺産のミルフォードサウンドへ 途中自然、環境、観光政策等を視察する」「船でリアス式海岸、ミルフォードサウンド視察」などとされているのみ(資料5ページに同市議の報告書)。
福岡市とこれほど条件の違う大自然の観光地政策が果たして「本市議会の政策提案機能や監視機能の強化」「先進的な事例の把握」にどれくらい資するものなのか、報告書の中で十分な説明が必要なはずですが、レポート本体が存在せず、説明が果たされているとはとうていいえない状況です。
(2)原稿用紙1枚のお粗末レポート
前述の03年12月のみらい福岡市議のベトナム・カンボジア視察のレポートは、タイトルや旅程をのぞけば本文わずか500字。原稿用紙1枚です(資料8ページに同市議の手がきの報告書)。しかもその中身たるや「戦争博物館 今日のイラク戦火の広がりは大きな社会問題となり、自衛隊の派遣、平和復興の問題として過去のベトナム戦争を知ることは有意義な視察であった」「ホーチミ市(ママ) 教育関係視察についてはベトナムは社会主義国家のため有意義な視察にならないので現地通訳の聞き取り調査とした。国費の義務教育小学校5年中学4年35人学級 高校85%大学60%進学率は高いと思う。不登校対策非行対策については頭を痛めているとのことです」というひどいものです。
現地に出かけながら「有意義な視察にならないので」視察をしなかったなどと言っていますが、そもそもベトナムが社会主義をめざしている国だということは現地にいかねばわからないことではなく、初めから分かっているはずのことであり、それならば視察にいかねばすむことです。視察のかわりにこの市議がおこなったことは、同行した通訳への「聞き取り」だといいますが「不登校対策非行対策については頭を痛めているとのことです」という「感想」にいたっては「通訳とおこなった世間話」の域を出ないものだと言われても仕方がありません。
しかも、ベトナムの大学進学率は10%前後で、「60%」というのはまったく間違った情報です。日本にいてインターネットで情報を集めれば安くて早くて正確なことがわかるのに、この市議は税金を使って何をしに行ってきたのでしょうか。
(3)インターネット切り貼り・丸写し
ではレポートの「量」さえあればいいかというと、そうともいえません。報告書のなかには、インターネットなどの著作物を切り貼り・丸写ししているものがあるのです。先述の05年10月の公明党市議らの欧州視察の報告書はレポート本体がA4で24枚の「堂々」たるものです。ところがこの報告は、先述の観光局視察報告だけでなく、報告書の大半(わが党の調査では文章部分の8割)が他人のホームページからの剽窃です。
●パリのディファンス地区再開発視察→和歌山社会経済研究所・株式会社日本旅行のホームページから剽窃
●インターランケンの環境・スイス鉄道事業調査→旅行会社JIB・サイト「旅の車窓から」のホームページから剽窃
●フィレンツェの都市計画視察→日本福祉施設士会のホームページの論文、およびインターネット百科事典「ウィキペディア」を剽窃
●ローマの歴史建造物保護状況視察→「ウィキペディア」、および総合旅行情報ホームページ「トラベルコちゃん」を剽窃
これらは、参照や引用ではありません。出典をしめさず、自分の文章として盗用しているのです。すなわち、文末や順番を微妙に入れ替え、訪問した施設職員の「説明」として、あるいは自分自身の「感想」としてこれらの剽窃した文章を使っており、レポートとしては悪質きわまるものです。いわゆる「コピペ」(コピー&ペースト=丸写し)です。(資料9〜10ページに公明党市議の報告書)フィレンツェの福祉施設のガブリエルという所長から説明を受けたとする同市議らは「ガブリエル所長にお話を伺っているうちに、強い地方色や格差があり…」といった具合に、「受けた」とされる説明が以下続きますが、この「強い地方色や格差があり…」以下はすべて日本福祉施設士会のホームページにある副会長のレポートからの剽窃です(資料11〜12ページに日本福祉施設士会のホームページ)。しかも「各訪問地でお話をうかがううちに」と巧妙に冒頭部分を変えて、ガブリエル所長の話をでっちあげています。同党の東京・目黒区議団の政務調査費領収書ねつ造を彷彿とさせます。剽窃元も報告書もいずれも公開された著作物であり、著作権侵害の疑いが濃厚です。同市議らは本当に現地で行政への聞き取りを行ったのかさえ疑われて仕方ないものです。
ごていねいに「誤字」まで盗んでいます(資料6ページは公明党の報告書、7ページは剽窃されたインターネット百科事典。それぞれのページの矢印部分を見て下さい)。
公明党自身がのべた「情報公開を前提として、誰が見てもおかしくない視察・調査を行うべき」という点にてらしても「誰が見てもおかしい」視察・報告といわざるを得ません。この問題については、海外視察一般の問題点をこえた、犯罪的行為といっても過言ではないでしょう。
【4】政令市最低の公開・透明度
03年9月に市民オンブズマンがおこなった全国12の政令市の海外視察の透明度比較によれば、福岡市は15点(50点満点中)で最下位でした。
■「まじめ」な視察・報告であっても今行くことはおかしい
なお、レポートの中には「まじめ」な視察を行っているものもありましたが、それをふくめて、今この時期にわざわざ特別に税金をあてて視察をおこなう必然性はないと言わざるをえません。
議員の政治姿勢にかかわる大問題──市議みずからの浪費をただせ
日本共産党は海外視察の廃止を主張し、少なくとも自粛するよう、議会各派の代表者会議で提案してきました(2003年6月)。しかし、他党の議員は「予算化されている中で全面的に中止というのも問題がある」(公明)「減額してでも実施してほしい」(みらい福岡)などと述べて反対してきました。
公明党にいたっては、「我が会派としては自粛する」などと言明し、前期に議長への申し入れまでしているのに、前述のとおり自らがインターネット丸写しの最もずさんな報告書を出し、1人99万9450円という、平均をはるかに上回る、上限ぎりぎりの予算をその視察で使っているのです。
市政全体からみれば少ない額であるという意見もありますが、私たちは市議の政治姿勢にかかわる重大な問題だと考えます。事実、これらの党の多くが、税金のムダづかいであるオリンピック招致や人工島事業に賛成してきたことを見ても、自らの税金の浪費に無頓着な議員では、市政の大きなムダづかいもただすことはできないと言わざるをえません。
自民・公明・みらい福岡・民主・社民・平成会など、海外視察に出かけている会派は、市民には住民税の増税や国保料・介護保険料の値上げ、家庭ゴミの有料化、留守家庭子ども会の利用料導入などを押しつけてきました。また、老人医療費助成の廃止や敬老金のカットなど福祉をきりすててきました。これらの会派は経済的に苦しい家庭の学用品や給食費の援助をおこなう「就学援助」について、辞書や水着を買うためのお金を05年度予算で切り捨てました。その額は2800万円。海外視察に使った4000万円があれば切り捨てずにすんだことです。
市民には増税や福祉の切り捨てを押しつけて格差や貧困をいっそう悪化させながら、自分たちの特権は温存するなど許されるものではありません。
昨今、石原都知事の超豪華海外出張、東京・目黒区や品川区の政務調査費問題、国会議員の事務所費問題など、政治家の税金やお金に感覚がするどく問われる問題が続発しています。他の政令市でも、たとえば神戸市議会などでは、この4年間の任期には市議の海外視察をしないことを決めています。わが党は、税金を使った海外視察の実態を市民に広く知っていただくとともに、いまこそ海外視察をやめることを厳しく要求しておくものです。