日本共産党福岡市議 綿貫英彦
規制緩和による保育の実態と新設のとりくみ
「議会と自治体」2002年7月号掲載
福岡市では、今年も保育所入所申し込みが急増し、4月1日現在、新年度の受け入れ予定数定員2万1760人にたいして、入所申し込みは2万3687人、待機児は781人にのぼっています。
全域で保育所がたりない
人口136万人の政令指定都市福岡市には、公立21ヵ所、私立134ヵ所の保育所があります。民間保育所が86%、園児数でいえば実に9割を占めています。
福岡市は1960年代から70年代にかけて、急増する保育需要に対処するため、公立保育所を増やすのではなく、民間主導による保育所整備をすすめてきました。
その後、将来の児童数の減少が予想されたとして、1981年に福岡市児童福祉審議会は「今後における保育所づくりのあり方について」答申し、保育所の新設については「大規模団地や人口急増地域などに配慮する事」とする一方で、当面の待機児解消には、「既存保育所の定員増で対応していく」とし、今日まで実に20年あまりも、新設は1ヵ所もおこなわず、増加する保育需要にたいして、既存施設の増改築および施設内定員増で対応してきました。
福岡市への保育所申し込み数(4月1日時点)は、97年の1万9599人から2002年には2万3687人と、4088人も増加しています。
保育所不足は、市内全域に広がっています。小学校区ごとの状況では、144の小学校区のなかで、30校区に認可保育所がなく、そのうち25校区では、入所申し込み数は80人以上です。
待機児数(4月1日時点)は、1997年が1060人、98年が945人、99年189人、2000年459人、01年が487人となり、02年度は、さらに増加し781人の待機児が出ました。
さらに、無認可保育所にかよう子どもを待機児数にはふくめないうえ、まったく補助をおこなっていません。福岡市が2000年7月に実施した調査では、市内に無認可保育施設が108施設あり、1450人の子どもたちが入所しています。
市はこうした保育需要の増加にたいして、99年に既存施設の定員をいっきょに1085人増やしました。
全国の自治体では、少子化対策臨時特例交付金を活用して、保育所の新設をしていますが、福岡市はこの交付金を利用して、61ヵ所の保育所の増改築をおこないました。
この結果、公・私立の認可園154ヵ所のうち、定員200人以上が25ヵ所、150人以上が39ヵ所もあり、実際の入所数は、「入所円滑化」でまだ多くなっています。
現在、福岡市の保育所の平均定員は148人、平均収容人数が158人と、全国の平均定員86人と比較しても、異常な事態になっています。
定員増でひどい つめこみ保育
こうした詰め込み保育をすすめてきた結果、保育の現場では、「部屋のなかで集団遊びができない」、「子ども達が重なり合うように寝ている」など、深刻な事態が起こっています。
ある公立係育所では、保護者会長を務めるお母さんが「赤ちゃんたちが、冷たい廊下に座って手遊びしているんですよ。子どもが多すぎて、毎日の保育を廊下でせざるをえない状態は、おかしい」といいます。この保育所のゼロ歳児クラスは、もともと定員6人でしたが、「定員弾力化」で、2000年度は2倍の12人が詰め込まれました。危険を避けるため、子どもを保育室と廊下に分けて遊ばせざるを得なかったということです。部屋には、造り付けのロッカーは9人分しかなく、足りない3人分のロッカーは床に置いていました。部屋はさらに狭くなり、子どもがよじ登ると危険な状態でした。
1歳児クラスに進級した2001年度も、本来の12人の定員に20人がはいり、廊下で遊ぶ状態がつづき、あまりのひどさに、昨年9月、保護者会が市議会に施設の拡充を求める請願を提出しました。
私たちは、父母の声をうけて保育所に調査に駆けつけ、5歳児のクラスの部屋の面積を測り、子どもの数で割ってみると、1人当たり1.76平方メートルしかありません。最低基準では、3歳児以上は1.98平方メートルですから、最低基準割れの実態があきらかになりました。私は、すぐに決算議会でこの問題を取り上げて追及したところ、市も最低基準を下回っている実態を認めました。
党市議団では、昨年11月に、最低基準を下回る実態の改善をもとめて、厚生労働省に要請に行きました。厚生労働省は、「担当者から市の実態把握の報告をうけ対応する」と約束しました。福岡市は厚生労働省からの指導を受け、11月に緊急調査した結果、乳児(ゼロ、1歳児)では、市内の全認可園の47%にあたる73ヵ園が最低基準を割っていることがあきらかになりました(その後の調査では、56%にあたる87ヵ園が最低基準を割っていました)。
厚生労働省は、最低基準割れの原因について、「福岡市が最低基準の解釈を誤ったため」といっています。最低基準では、ゼロ、1歳児を受け入れる保育所には、「乳児室またはほふく室」を設けるとし、そのうえで、乳児室の面積は1人1.65平方メートル以上、ほふく室の面積は1人3.3平方メートル以上と定めています。条文では、最低限、乳児室があればいい、と読める書き方になっているので、福岡市は、すべて1.65平方メートルで計算し、子どもたちを押し込んできたのです。
厚生労働省から指導を受けた市は、ゼロ、1歳児室について、子ども1人あたり3.3平方メートル以上を確保するよう通達を出しましたが、保育現場では大混乱が始まっています。
ある民間保育園では、乳児室で16人を保育していました。面積を測りなおすと、乳児室の定員は12人なので、16人のなかで、比較的月齢の大きい乳児4人を別の部屋に移しました。それによって4〜5歳児の保育室がたりなくなり、本来は発表会などに使うホールに移らざるを得なくなりました。園長さんは「無理をすると、いろんなことが起こってくる」と心配しています。
この保育園と同様、乳児室の改善を求められた園は87ヵ所にのぼり、市保育課が各園を回り、ホールの使用などを促していますが、保育の現場には困惑が広がっています。
新設検討と無認可の認可化が審議会中間答申に明記
このような状況のなかで、ようやく昨年10月に、市長は、福岡市児童福祉審議会にたいし、「今日まで保育所の新設をおこなわず、増加する保育需要にたいしては、既存施設の増改築及び施設内定員増、入所円滑化で対応してきたが、急増する保育所入所申し込みに対応できない」とし、保育所整備のあり方と無認可保育所の取り扱いについての諮問をしました。
児童福祉審議会では、私はこれまでの福岡市の保育行政について、保育所を新設せず、既存施設の定員増や入所円滑化を実施してきた結果、まともな保育ができなくなっている状況や、保育所に入所できない父母の悲痛な声を紹介しました。そして、ただちに必要な地域への保育所の新設、無認可保育所の認可化、すべての無認可保育所への助成制度の創設をもとめました。
児童福祉審議会で論議がすすむなかでも、待機児童数は増えつづけ、最低基準割れがあきらかになるなかで、今年の7月に最終報告を出す予定だったのが、「それでは間に合わない」という声も審議会のなかで高まりました。
児童福祉審議会は、今年2月に、「待機児童」対策のため、保育需要の高い地域で保育所を新設する必要性や、認可基準を満たす無認可保育所を認可することなどをもとめる中間答申を市長に提出しました。
民間保育園補助金の大幅削減と在園児の追い出し
こうして福岡市でも、保育所新設の方向性や条件のある無認可保育所の認可化が出されましたが、一方で、保育行政の充実とはまったくあいいれない施策もすすんでいます。昨年10月、市は、福岡市保育協会をつうじて各民間保育園に交付してきた16億1800万円(01年度)の「民間保育園補助金」を、「02年度は8億円あまり削減する」と提案してきました。
この一方的な提案に、保育士さんが加入する福祉保育労働組合や多くの父母たちが、「民間保育園の補助金の大幅カットに反対する会」を結成し、街頭宣伝や請願署名運動に立ち上がりました。
また、党市議団も急遽、削減が保育の現場にどのような影響を与えるのかを調査し、保育協会をはじめ、各園長さん、福祉保育労働組合、保育運動関係団体等に呼びかけ、補助金の大幅削減についての市政懇談会を開催しました。
12月議会で、待機児が増加するなか、民間保育園の保育の質の低下と保育士の労働条件のさらなる悪化につながる、補助金の大幅削減には何の道理もないことをあきらかにし、撤回を要求しました。削減反対の運動は大きく盛り上がりましたが、三億円もの削減が強行されました。
保育所の整備費も、新設予算は計上されるどころか、5億円も減額し、今年度も申し込みが急増するなかで、在園児を追い出している実態があきらかになっています。
3月の入所決定日直後から、入所できなかったお母さんたちから党市議団に、「勤務時間が短いといわれて断られた」、「進級できずに在園児が中途退園させられた」などの苦情が、相ついで寄せられました。
20人もの在園児が退園させられた保育園に、5年間通ってきた在園児のお母さんから、悲痛な手紙が寄せられました。
手紙には、「1日4時間のパートで月20日働いているのに、なぜ落とされるのか。クラスの友達は進級できるのに、自分の子どもだけが進級できない。子どもが楽しみにしている運動会の鼓笛隊もできなく、子どもになんといってよいのかわからない」と書いてありました。
父母の運動で市が保育所新設を約束
保育をめぐる切実な要求がつよまり、保育所新設をもとめる運動がひろがるもとで、市が新設に踏み出さざるをえない状況も生まれています。
市内東区の三苫地区では、就学前の児童を持つ母親らが、「三苫地域に保育園をつくる会」を結成し、今年1月から公民館で学習会を開いたり、メンバーらが街頭や地域を個別訪問して、署名をよびかけてきました。
この三苫校区は新興住宅地で、なかでも若い夫婦と子どもの人口が急増しています。この校区に認可保育園が1ヵ所もなく、2001年度の三苫校区の保育所申し込みも171人となっていました。困った親たちは近隣の認可施設への入所を希望しますが、入所希望者が多くて、入所できない「待機児」が続出しています。また、入所できても、車で20〜30分の遠方まで子どもを連れていかなければならない状態がつづいていました。
約2ヵ月のとりくみで、住民(約8400人)の3分の1に相当する3685人分の署名を添えて市議会に提出し、市長あての陳情書も提出する大きな運動をひろげてきました。
党議員団は、3月20日の市議会条例予算特別委員会総会での、「保育所が1つもない東区の三苫地区に新設を」との追及に保健福祉局長は「調整しているが、受け入れが厳しくなってきている」、「できるだけ早期に新設する」と答弁し、助役も「迷惑をかけ、申し訳ない。早く整備に取り組みたい」と答え、福岡市東区内に保育園を新設する方針をあきらかにしました。
4月に開催された児童福祉審議会では、三苫地域をふくめて市内6ヵ所の地域が保育需要が特に大きい地域として明記されました。
福岡市の保育行政の充実をもとめる声は大きくなっています。今年7月には、児童福祉審議会の最終答申も出され、新たな保育所整備のあり方が決まります。
山崎市長は、前回の選挙で子ども関連施策の充実を掲げ、子どもを安心して産み育てられる環境づくりをおこなう、と公約としていました。しかしながら、無駄な大型開発の象徴である、博多湾の自然環境に深刻な影響をおよぼす人工島建設には巨額な税金を投入(今年度最高の343億円)する一方、民間保育園の補助金の削減など、保育行政の充実を願う父母、保育関係者の願いを踏みにじっています。
深刻化する保育環境を改善させる運動を大きく構築するとともに、今秋の市長選挙にむけて、子どもを大切にする市政の実現をめざして頑張っていきたいと思います。