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しんぶん赤旗 2002年1月25日〜27日

保育所「定員弾力化」…園児のいま——福岡の実態にみる

保育所が満杯で入れない待機児童が昨年4月には3万5千人を超えました。そんななか、国は「定員弾力化」をすすめ、2001年度から年度の後半(10月以降)は保育所の定員に関係なく、子どもを受け入れていいことにしました。保育室に子どもがあふれ、保育所の認可基準である国の最低基準(注)を下回る事態までおきています。

注・最低基準
児童福祉施設の満たすべき施設運営の最低限を定めた厚生省令。最低基準を満たさないと認可されない。保育士の配置基準や子ども一人あたりの必要面積などを定めている。1948年の制定以来、施設基準はまったく改善されていないため、これまで国や自治体は上乗せした基準で補助金を出してきた。

子どもあふれ廊下遊び

「赤ちゃんたちが、冷たい廊下に座って手遊びしているんですよ。子どもが多すぎて、毎日の保育を廊下でせざるをえない状態は、おかしい」。福岡市内の公立保育所に子どもを預け、保護者会長を務める武藤純子さんはいいます。

この保育所のゼロ歳クラスはもともと、定員6人です。赤ちゃんは同じゼロ歳でも、寝ている子、ハイハイの子、歩く子と、生後の月数で発達に大きな差があります。動きのコントロールもうまくないため、過密な状態では、ぶつかる、ハイハイしている子につまずく、など危険です。そうしたことを考慮し、定員は本来、国や自治体の基準より多少ゆとりを持って決められています。

基準の2倍の園児詰め込む

ところが、「定員の弾力化」で、昨年度は2倍の12人が詰め込まれました。危険を避けるため、子どもを保育室と廊下に分けて遊ばせざるをえませんでした。作りつけのロッカーは9人分しかなく、足りない3人分のロッカーは新たに床に置いてありました。その分、部屋は狭くなるし、子どもがよじ登ると倒れてくる危険な状態でした。

1歳クラスに進級した今年度は、本来の定員12人のところに22人(現在19人)入り、やはり廊下で遊ぶ状態です。あまりにひどい状況に父母が声を上げ、昨年9月、保護者会として市議会に施設の拡充を求める請願を出しました。

このクラスに子どもを預ける山田由美子さん(38)は「最初に要望に言った時、市は『状況は分かるが、国から定員の125%までは入れろといわれているので、待機児がいる以上、仕方がない』といいました。以前はクラスごとの保育室の面積でクラス定員が決まっていたが、今は園全体の面積で考える、全体ではまだ106%だから、と。事故が起きないと行政は動かないのかと思いました」といいます。

国は「規制改革」の一環で「定員弾力化」を進めています。厚生労働省は1998年、最低基準を下回らない限りで、年度当初15%、年度途中は25%までの定員超過を認めました。さらに昨年3月には、年度後半においては定員にかかわらず、入所を認めるとエスカレートさせました。

定員を超えた詰め込みは、小泉内閣の「待機児童ゼロ作戦」の大きな柱です。2000年10月時点で全国の保育所の49%が定員をオーバーしています。大阪市内の民間の認可保育園で保育士をする草田菊美さんは「(園児の詰め込みで窒息死事件が起きた)ちびっこ園はひとごとじゃない。一つ間違えばと、ゾッとすることがある」といいます。草田さんの園はもともと、定員100でしたが、現在150人の園児がいます。一部増改築した分、プールがなくなり、園庭も狭まりました。

子どもの詰め込みで保育の質が落ちるという不安にたいし、国は「最低基準は守られるので、質は確保される」と繰り返してきました。

福岡市の場合、父母の声を受けた日本共産党の綿貫英彦市議らが調査したところ、子ども一人あたりの面積が最低基準を下回っていることが明らかになりました。

47%の保育所が認可基準割れ

追及を受けて福岡市が緊急調査(昨年11月)した結果、乳児(0、1歳)では、市内の全認可保育所の47%にあたる73園が最低基準を割っていました。幼児(2〜5歳)では11園が最低基準に達していません。

これは乳児、幼児の二つに分けて計算しただけのものです。それぞれ年齢ごとに子どもの数と保育室面積を計算すれば、もっと多くのクラスが最低基準を切っています。武藤さんたちの保育所の場合も、幼児全体でみれば最低基準をクリアしているものの、3歳と5歳のクラスは基準以下です。

こんなことが起きたわけは——。

“ハイハイ”で分ける基準

福岡市内の保育所で最低基準割れが起きた原因を、厚生労働省は「市が最低基準の解釈を誤ったため」といいます。

最低基準は、0、1歳の子どもを受け入れる保育所には「乳児室またはほふく室」をもうけると規定。そのうえで、(1)乳児室の面積は1人1・65平方メートル以上、(2)ほふく(ハイハイ)室の面積は1人3・3平方メートル以上、と定めています。条文を読む限りでは、最低限、乳児室があればいいと読める書き方になっています。

基準引き下げ求めた厚生労働省

しかしそれではあまりに不十分です。1・65平方メートルは畳1畳分。ベビーベッドを置けば、あとは横に保育士が立つスペースしかありません。ハイハイしない子でも寝てばかりいるわけではありません。手とひざを使って前へ進めるようになるには、赤ちゃんをベッドからおろして保育士が働きかけます。そのスペースもとれません。そこで厚生労働省は最低基準の解釈を「ハイハイしない子については1・65、ハイハイする子は3・3」としています。しかし福岡市は、すべて1・65平方メートルで計算していました。98年、国の「定員弾力化」策を受けた入所人員の見直しで、最低基準を“最低に”解釈したのです。

厚生省(当時)は70年代には、「乳児室とほふく室あわせて1人5平方メートル」が望ましいという通達を出し、それが定着してきました。これを「定員弾力化」によって転換。待機児童を抱える市町村に、最低基準までは子どもを受け入れるよう基準の引き下げを求めました。昨年3月には再度、5平方メートルの基準を適用しないよう通達を出しています。

最低基準は1948年にできました。終戦直後で、社会は疲弊していました。そのため最低基準の法令自体、(1)最低基準を超えて常に、設備、運営を向上させなければならない、(2)最低基準を理由に設備、運営を低下させてはならない(児童福祉施設最低基準4条)——と明記し、よりよい保育への努力を求めています。ちびっこ園西池袋事件の被害者代理人である寺町東子弁護士は、「規制改革」で定員超過を認めた厚生労働省の書通達(98年2月など)について「最低基準4条違反ではないか」といいます。

厚生労働省は現在、ほふくする、しないで面積基準を分けています。しかし赤ちゃんは8、9ヵ月でハイハイし始めるので、年度の後半になると、多くの子は、はうか、歩くかしています。入所時点では、まだはっておらず1.65平方メートルで足りても、年度途中には3.3平方メートル必要になります。年度後半を見通せば、はじめから1人3.3平方メートル確保しておく必要があります。

はう、はわないで分ける厚生労働省の解釈は実態に合わず、子どもをより詰め込もうとするものです。こうした国の姿勢が、福岡市の最低基準割れの背景にあります。

「規制緩和」でより詰め込み

昨年の通達で、厚生労働省は「保育所内の余裕スペースの積極的活用」も求めました。それにより全国的に、ホール、保育士の休憩室・更衣室、事務室を保育室に転用、廊下を保育スペースとみなすことがすすみました。園庭に代わるべき公園・広場が保育所に隣接していなくてもいい、短時間保育士の割合を緩和する、などの規制緩和も次々におこなってきました。

寺町弁護士は「いかようにも読める最低基準をそのままにして規制緩和し、保育所経営への企業参入を進めれば、必ず基準を低く解釈するところが出てくると思っていた。厚生労働省にも以前からそう行ってきたが『大丈夫』の一点張りだった。福岡市のようなケースが今後も起きないという保障はない」といいます。

安心できる施設増やして

保育所には、国の定めた最低基準を満たし都道府県知事に認可された認可保育所と、認可を受けていない無認可保育所があります。福岡市では、認可保育所でありながら、約半数の保育所の乳児クラスが認可基準割れをしています。同市では1987年を最後に、認可保育所がまったく新設されていません。昨年4月時点で待機児童は約500人です。

倉庫を整備し保育室に

小学校の学区の範囲内に一つも認可保育所がない地域が30あり、保育所に入れても、職場とは反対方向の保育所に車で往復(自宅から保育所)40分かけて通っている人もいます。

福岡市の山田由美子さん(38)は「待機児をなくしてほしい。でもそのためだといって、子どもを詰めこむのはやめてほしい。乳幼児は、人間の基礎になる大事な時期。必要な施設を作ってほしい」と訴えます。

しかし同市は、ただちに新増設にとりくむ気はありません。7月に同市児童福祉審議会の答申が出るのを待つ姿勢です。新年度に向けた対策は「倉庫になっている所などで、整備して保育室に使える所がないか、いま各園を見回っている」(市保育課長)。

小泉内閣も「待機児童ゼロ作戦」といいつつ、公的な責任で施設をつくって待機児童をなくす対策にはなっていません。「規制改革」で民間企業などが保育所経営に参入しやすくするのが基本姿勢。参入を促すには、企業が収益を上げやすくする必要があります。

そのためにも保育所の運営・施設基準を低く抑えることが求められています。昨年12月の政府の総合規制改革会議の報告書は、いっそうの規制緩和や、国の基準に自治体が独自に上乗せして手厚い保育をしているのをやめることを強く求めています。

北條陽子さん(26)は昨年3月、東京・豊島区の無認可保育施設、ちびっこ園池袋西で二男・涼介ちゃん(当時4ヵ月)を亡くしました。同園が経営の効率を上げるために子どもを預かりすぎ、一つのベビーベッドに2人が寝かされていたためにおきた窒息死事故でした。北條さんは、認可保育所がいっぱいだったため、ここを利用していました。

「『待機児童ゼロ作戦』と聞いたときは、うれしかった。でも中身を見て、これは違うと思いました。公的な保育所の保育レベルを下げるのは望みません。安全などを考えて定員が決まったはずなのに、国がそれを壊しているのはおかしい。いまのような民営化にも納得ができません。国の責任で保育所を増やすことが、いまの国にとってそんなに難しいことでしょうか」と北條さんはいいます。

福岡市の保育所の保護者会長、武藤順子さんも「企業経営の保育所を増やすというけれど、利益を追求する企業でどうなのか」と国の姿勢に疑問をのべます。「どんな保育所でもいいからいれて、『ほら、待機児ゼロで働きやすいでしょ』といわれても、そうはならない。安心して預けられる所を増やしてほしい」

補助引き下げ、停滞する整備

1970年代には公立保育所だけでも毎年、全国で500から600ヶ所が整備されました。ところが1985年をピークに公立・民間あわせた認可保育所数は減り始め、90年代を通じ減り続けました。85年に、「行政改革」の名で、保育所運営費のうち国の負担分を8割から7割に、翌年には5割まで引き下げたのが原因です。その分、自治体の財政負担が重くなり、保育所整備が停滞しました。一方で、国がまったく補助をしていない無認可保育所は、90年代を通じ1・5倍に増えました。

福岡市ではいま、保育所のない東区・三苫(みとま)地域に「保育所をつくる会」ができ、保育所新設を求める運動がはじまっています。1月20日にひらかれた集会には、地域の母親ら約30人が集まり、熱気があふれました。「つくる会」に参加する奥村美香さん(32)はいいます。「みんなで力をあわせて、地域に安心して預けられる保育所をつくらせたい」

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