2021年6月議会
「学校教育におけるデジタルトランスフォーメーションの
適切な推進を求める意見書(案)」への反対討論
2021年6月23日 山口湧人議員
私は、日本共産党市議団を代表して、ただいま議題となっております意見書案第 号、「学校教育におけるデジタルトランスフォーメーションの適切な推進を求める意見書案」に反対し、討論を行います。
わが党は、一般的に社会の技術革新そのものは歓迎する立場であり、新型コロナウイルス感染症への感染不安などを理由に学校を長期欠席している児童生徒へのオンライン授業の実施など教育におけるICTの活用自体を否定するものではありません。しかし、文部科学省が進める「GIGAスクール構想」は、経済産業省の「『未来の教室』とEdTech研究会」の提言やsociety5.0の実現という国家戦略が背景にあり、公教育に民間産業を参入させ、もうけを上げようという財界が、生産性の向上のために役立つ人材を育成するという要求によるものです。「人格の完成」という教育の目的を踏みにじるとともに、ICT教育が、子どもの学びにもたらす効果と影響について、真剣な検討を後回しにして拙速に進めるやり方は問題だと言わなければなりません。以下、本意見書案における問題点について述べます。
第一の問題は、ICTの活用について教員の自主性自立性を尊重して行われるべきという観点が全くないことです。本意見書案は、ICTの活用により「多様な学びの実現と教員の負担軽減などへの期待が高まっています」とあります。しかし、実際に現場で行われようとしているのは、クラウド上の学習動画の視聴やAIドリルの活用という教育の孤立、画一化であり、ICT技術を取得し、授業に取り入れること自体が目的化されるなど、教員の負担は増えています。本来、教員の主体的な教材研究や研修の時間が十分に確保される必要があり、授業で子どもと教員あるいは子どもどうしの生きたやりとりの中で学びは深まるものです。そこには、ICTを一つのツールとして、どのように活用するのか判断する教員の自主性と自立性が尊重される必要があります。
第二の問題は、デジタル教科書の導入を積極的に推進していることです。本意見書案では、デジタル教科書のみを使用した場合の懸念は示されていますが、導入について「慎重に」という文言はなく、教育の充実のために活用を推進する立場です。文科省の有識者会議は、小学校の教科書が改訂される24年度からの本格導入を求める中間提言を出しましたが、それに対するパブリックコメントの意見の中には、「学習効果が上がる科学的根拠がない」「視力や睡眠、脳への影響が懸念され、慎重に議論すべき」など導入に慎重な声が多かったとしています。また、教員の負担についても「全教員がデジタル教科書を効果的に使用できるよう時間を十分保障する必要がある」という意見も出されています。このような意見からしてもデジタル教科書の導入は慎重に検討することが求められています。
第三の問題は、本意見書案の要請項目の3にある「様々な会社の情報端末とデジタル教科書と個人認証システムの互換性を確保」することを求めている点です。名古屋市では、教育委員会が子どものタブレット端末の操作履歴を無断で取得していた問題で、個人情報保護条例に違反する恐れが指摘され、端末を一時使用停止とする事態になっています。今後、ベネッセなどの民間教育産業のサーバーを活用してAIドリルなどを実施すれば、子どもたちの学習履歴や端末の操作履歴などがクラウド上に蓄積され、民間教育産業に利活用されるのではないかという懸念が強まっています。行政には、行政が教育目的に利用する場合でも、児童生徒や保護者に対して十分に説明し、同意を得る必要があるとともに、個人情報が第三者に流出することがないよう有効な手立てを講じることこそが求められています。
わが党はこれらの観点を踏まえた修正案を立案会派である公明党に提案しましたが、受け入れられませんでした。
ICTの活用は、オンライン授業など一つのツールとして教員の自主性と自立性が前提とされるべきものであり、これまで学校教育が大切にしてきた集団での共同の学びを変質させることは許されません。コロナ禍の中、かつてない不安とストレスをため込んだ子どもたちへの精神的なケアとともに、教員を増やし、手厚く柔軟な教育の実現こそ求められていることを申し上げ、わが党の反対討論といたします。