議会報告
2020年9月議会
9月議会反対討論
2020年9月15日 堀内徹夫議員
私は日本共産党市議団を代表して本議会に提案されております諸議案のうち、議案第172号ないし177号、179号、181号、183号ないし185号および190号に反対し、討論を行います。
まず、議案第172号「令和2年度福岡市一般会計補正予算案(第5号)」についてです。
本議案は新型コロナウイルス感染症対策、国の内示等に伴う公共事業の変更、財源確保などを盛り込んでいます。
新型コロナウイルス感染症関連として計上されている事業の大半は一刻も早く市民に届けるべきであるというのがわが党の立場でありますが、他方でそれ以外の部分には不要不急の事業、市民の立場でやり直すべき事業が含まれております。
そこで市長提案の予算案に反対する3つの主な理由を述べておきます。
第一は、天神通線延伸です。
この事業は国体道路と明治通りを結び、市役所の東側を走る天神通線を、約60億円かけて北側に110メートル延伸するものであり、今回そのための測量・予備設計費を計上しています。
この延伸により、現在渡辺通りと天神通線の合計交通量が1日に5万台であるのを6万台に増やすことが目指されており、自動車交通を削減し渋滞を緩和するどころか、いっそう呼び込むという時代錯誤の計画であることが審議で明らかとなりました。渋滞緩和はただの口実であり、実際にはこの延伸をきっかけに周辺のビルの建て替えの際に、容積率のボーナスを受けやすくしたり、地下通路などを建設してやったりするなど、いわば60億円もの多額の税金を投じて特定企業を優遇しようというのが本事業の真の狙いだと言わねばなりません。
しかも、この延伸は、規制緩和などによりオフィスビルを大量につくりだす「天神ビッグバン」と一体のものです。ところが、空室率が上昇するなど、オフィスビルの需要が目立って減退し始め、それが福岡はもとより世界的な趨勢となりつつあります。いわば「天神ビッグバン」構想の前提が崩れ始めているのです。
原因として考えられるのは、景気の後退、感染症の拡大ですが、より根本的には、リモートワークやテレワークなどがこれをきっかけに広がり、働き方や企業活動のあり方自体が根本的に変化しつつあることです。しかもそれは一過性のものでなく「新しい常識」、「ニュー・ノーマル」として長期的な構造変化だと見なされています。
12日付の日経新聞の1面で「高層都市――高いビルが立ち並ぶ都市――は時代遅れになった」という建築家の隈研吾東大教授の発言が紹介されています。隈教授は、「高層ビルや工場のような『鉄の箱』に人々を詰め込んで働かせるのは、初期の産業資本主義では効率的だった。ITがもたらした新しい働き方にはそぐわなくなっていたが、都市のモデルだけが残って形骸化していた。新型コロナはそれを自覚させてくれた」と述べています。
つまり、オフィスビルを大量に建てるような都市のあり方は時代遅れであり、その考えに基づく構想をこのまま無批判に推進していいのかどうかが問われているのであります。
ところが、髙島市長は「エレベーターのボタンを触らないようにする」とか「自動で体温が測れる機械を入れる」とか、小手先だけの対応を盛り込んで、事を済まそうとしています。いくら「感染症対応シティ」という看板をかけてみても、肝心の大もとの問題にきちんと向き合おうとしないのであれば、意味がありません。それどころか、「天神ビッグバン」の期限を延長し、容積率アップのボーナスをつけるなど、反対の方向に走り出しています。
このような姿勢は、「天神ビッグバン」推進派からも疑問の声が出ています。元佐賀市長の木下敏之・福岡大学教授はその一人ですが、昨日付の西日本新聞に意見を載せ、「時代が『密』を避けようとしているのに、容積率をアップして『密』を加速する政策は、時代の変化と真逆である」と指摘した上で「天神ビッグバンは、立ち止まって見直すべきである」と提言しています。
髙島市長は「リモートのイベントで意見を聞いた」と触れ回っておられるようですが、よくよく調べてみると、福岡地所や東京建物といった不動産関係、九経連の幹部など、いわばこの構想で大もうけをする利権側の人間からしか話を聞いておりません。これでははじめから「推進」という結論しか出ない仕掛けになっており、今求められている真の見直しとはおよそかけ離れたものだと言わなければなりません。立ち止まって見直すことさえしない市長の姿勢は許されません。
第二に、元岡地区新設中学校整備事業です。
この事業は、西区・元岡地区の新設中学校整備に向け、地質調査・基本設計等を行うためのものです。
髙島市長の開発優先の政策によって無計画な人口膨張が引き起こされた結果、市内の各地で学校がパンクし、子どもたちの学びが犠牲にされています。九大学研都市が建設され人口が急増している元岡地区もその一つです。わが党は、いかに無責任な開発行政のツケ回しであるとはいえ、子どもたちの最善の利益を考えるなら、一刻も早く同地区に新しい中学校を建設すべきであり、この間、議会でもその立場で質問をしてまいりました。
しかしながら、今回湯溜池というため池の半分を埋め立ててそこに学校を建設するという案については、そもそも市の行政組織の内部だけで検討され選定されたものであり、外部の有識者などを入れた選定委員会によるものでありません。
行政内部だけで秘密裏に決めた結果、本当に他に適切な用地がなかったのかどうかが全くわかりません。教育委員会は10もの候補地の中からここを選んだと言っていますが、その大半は初めから不適当な場所ばかりであり、これでは「出来レース」だったと言われても仕方がありません。北原・田尻の区画整理地域をはじめ、住民や不動産関係者の広範な情報に基づく選定がなされているとは到底いえません。
また、やはり行政内部だけで決めたために、ため池を埋め立てるリスクが解消されているのかどうか、全く不明です。わが党の質疑では液状化や水害の危険性などを専門家に聞くべきだと質しましたが、教育長は聞く耳を持ちませんでした。しかも埋立による費用の増嵩が一体どれほどになるのかもわからず、土地を選定したのであります。「お金はいくらかかるかわからないけど、先に土地をここに決めさせてください」と言っているのと同じであり、「最少の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならない」と定めた地方自治法第2条に反する、こんなずさんなやり方は許されません。
加えて、一番大事な当事者である子どもたち・保護者などの意見を聞いておりません。
わが党は、関連予算の削除をして、早急に選定をやり直すよう求めましたが、市長や教育長は応じませんでした。
第三に、「財源確保の取組み」に関してです。
この補正予算案ではクルーズ受入事業、中央埠頭整備事業、MICE誘致推進事業などが減額されております。これは見通しがないものであり、当然のことです。
しかし、コロナがいつまで続くかわからない上に、その影響がどこまで尾を引くかは見通せておりません。WHO、世界保健機関のテドロス事務局長は7月31日に新型コロナウイルスの世界的大流行の「影響は今後数十年に及ぶ」と警告したほどであります。したがって、インバウンドなど、外からの「呼び込み」を前提にした事業、具体的には「ウォーターフロントネクスト」などの構想全体を見直す必要が明らかに生じていると言わねばなりません。先ほど述べた「天神ビッグバン」「博多コネクティッド」とあわせて、その見直しに着手すべきでありますが、市長は本会議でも見直しには応ぜず、委員会審議でも市側はクルーズ船の「予約が入っている」と強がり、オフィスビル需要は「回復する」という願望を繰り返すだけでした。なぜ前提が壊れつつある計画にしがみ続け、コロナ対策など目の前の市民の命と健康の危機への対処は後回しにするのか、およそ理解できません。
以上の理由から、わが党は本議案に反対をするものであります。
次に、同じ一般会計補正予算案に含まれているもののうち、わが党が賛成する事業についても意見を述べておきます。
一つ目は、少人数学級整備についてです。
今回補正は、来年度に小・中学校の全学年で35人以下学級を暫定実施する際に、不足する教室等を整備するためのものです。
わが党は長年35人以下学級の全校・全学年実施を求め、髙島市政はそれを拒否してきたわけですが、6月議会でわが党がコロナ対策として社会的距離を確保する上でも少人数学級が必要であると追及し、市側もようやく重い腰を上げたものであり、この転換自体は当然のことであります。
しかしながら、今回は暫定実施であることに加え、教員を増員せずに、現在配置されている人員の振り分けによって対応しようとしていることが明らかになりました。現在、少人数指導や教科担任、チーム・ティーチングなどに配置されている教員がクラス担任に振り向けられてしまえば、例えば子どもたちがつまずきやすい分数の計算の授業などへの支援が手薄になり、子どもたちと教員にしわ寄せされてしまいます。
来年度の実施までにはまだ時間があります。その間に、教員増員の手立てを取るとともに、暫定ではなく恒久的な実施とすること、さらに今年度は感染防止のために分散登校などを行なって、カリキュラムの詰め込みを改めること、将来的に30人・20人学級を展望することを要求しておきます。
二つ目は、介護施設等従事者PCR検査事業についてです。
この事業は、介護施設や障害者施設の従事者に対するPCR検査の受検費用を助成するものですが、自己負担が1万円必要になります。コロナで大変な苦労をしながら介護や福祉という社会的に欠かせない労働、エッセンシャル・ワークをされている人たちに、安心して労働を続けるためにさらに1万円を自分たちで払わせるというのはあまりにもひどい話です。また、自己負担額をカバーできる事業所とできない事業所とで格差が生じてしまいます。さらに、同じ補正予算案に計上されている妊婦へのPCR検査が事実上無料で行われることと比べても整合性がありません。
したがって、できるだけ早く受検費用の自己負担分をなくし、無料で、定期的に受けられるようにすることを強く求めておきます。
以上でわが党の反対討論を終わります。
以上