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2008年11月臨時議会
こども病院人工島移転の是非を問う住民投票条例案に対する賛成討論
2008年11月19日 ひえじま俊和議員
私は、日本共産党市議団を代表して、本臨時議会に提案されている議案第182号、福岡市立こども病院人工島移転の是非を問う住民投票条例案に賛成し、条例案を否決すべきとの委員長報告に反対して討論を行います。
本条例案は、こども病院の人工島移転の是非を問う住民投票の実施を定めるものであります。市民が地方自治法の規定に従って3万545人の有効署名数をもって条例制定の直接請求を行ったことを受け、本臨時議会が招集されたのであります。
本条例案に対し、吉田市長は、市民に説明し意見を聞いた上で総合的に検討して人工島が適地だと判断したこと、議会で審議され議決されたことなどの理由を挙げて、住民投票条例を制定する必要がないとの意見を表明しました。人工島移転計画の撤回と住民投票の実施を求めたわが党の質疑に対しても拒否する答弁を行いました。そこで、わが党が住民投票条例の制定に賛成する理由と、市長意見に対するわが党の見解を明らかにしておきます。
まず、市長がこども病院の人工島移転を決めたことは何の道理もないということであります。
その1点目は、こども病院を人工島に移転させれば、子どもの命が救えないという問題です。こども病院は、現在本市の中心部にあって、市内のどこからも搬送、通院がしやすい場所にあります。さらに九大病院や福大病院などと連携して、主に西部地域の小児救急医療を担っています。こうした小児医療のバランス配置は、本市の医療政策に基づき、また医療関係者の長年にわたる努力によって築かれてきたものです。そのこども病院を人工島へ移転させれば、バランスが崩れ、西部地域は小児救急医療の空白地となります。これに対し市長は、都市高速道路を整備するので心配ないなどと言われますが、その計画は具体的に進展しておらず、2013年の新病院開院時に間に合わないということが判明しました。たとえ都市高速道路が延伸されても西部地域からの搬送時間は現在地と比較して2倍以上かかることが予想されます。心配ないなどと言う市長には、急患の子どもの搬送の実態も、一刻も早く病院に着いてほしいと願う家族の苦悩も、理解できないのでしょう。とりわけ、「人工島に移転すればハイリスク分娩に対応できない」との多くの産婦人科医による指摘は現場の声として無視できないものです。出産時に脳内出血を起こした妊婦がたらい回しされて死亡した東京の事件は、危険を伴う分娩が一分一秒を争って対応すべきものであることを改めて示しています。人工島に移転することによって搬送に時間がかかり、同様の事態を招く恐れが強いと言わざるを得ません。また、市長は西部地域の患者受け入れについて九州医療センターや浜の町病院と協議しているなどと言われますが、医師・看護師不足や事業採算などの問題もあり、空白をカバーできる保障は何もありません。子どもの命を救うために、こども病院は市の中心部にあるべきであります。
2点目は、人工島の破たん救済に他ならないという問題です。市長は人工島の病院用地を取得する予算をつけ、年度内にも土地売買契約を行おうとしていますが、市長が急ぐのはなぜか。博多港開発は土地が売れずに銀行団への返済が滞り、昨年度末、住友、三井、三菱UFJ、みずほなど大手銀行による融資が打ち切られて危機的事態に陥りました。そこで、融資の大部分を引き取ってもらった福銀に損はさせまいとして、市長はより広い用地を税金で買い取るしかないと判断したのではありませんか。さらに、人工島事業の推進の起爆剤に位置づけている新病院が頓挫すれば、今後の企業誘致や、コンベンションセンター、美術館、大学などの公共施設の誘致、都市高速道路などインフラ整備にも影響が出て、人工島事業そのものが立ちゆかなくなると恐れたのではありませんか。こどもの命と財界・銀行の利益を天秤にかけたうえに、人工島の破たん救済に狂奔する吉田市長に、子どもや医療を語る資格はありません。
3点目は、市長が公約した「見直し」の問題です。吉田市長が一昨年の市長選挙で公約したのは「こども病院の人工島への移転計画を見直します」というものでした。患者家族のみなさんをはじめ市民が移転中止を期待したのは当然です。ところが吉田市長は、前市長の方針を見直すどころか継承、継続し、同じコンサルタント会社に調査業務を委託して恣意的な報告書を出させ、また現地建て替え費用について名前も言えないゼネコンの意見を聞いたとして勝手に43億円も上乗せするなどして検討から排除し、「人工島が最適」との結論を導き、こども病院の人工島移転を決定しました。市長は「総合的に検討した」などと言われますが、その実態は、当初から人工島移転を前提にして、名ばかりの検証を行った、まさに「検証偽装」に他ならないのであります。どんな言い訳をしようとも、吉田市長の公約違反は明白です。「裏切りだ」「うそつきだ」との市民の批判を浴びてもなお開き直る市長の態度はまったく異常であります。
そもそも政治家の公約とは有権者との約束であり、公約違反は自身の存在意義をも問われる重大問題であります。本来なら、市長は市民に謝罪した上で、再選挙を行い、市民に信を問うのが筋であります。住民投票さえ拒否する市長に対し、「もうリコールしてやめさせるしかない」と市民が怒るのも当然です。
4点目は、市長の新病院基本構想は病院事業における本市の公的責任を放棄するという問題です。市長の基本構想案によると、敷地面積を3.5ヘクタールに広げ、ベッド数を現行190床から260床へと増やすなど大規模化し、その整備費用の単価を引き上げて総額約 186億円と見積もっていますが、収支を合わせるために病床利用率も外来患者数も今より1.4倍以上に増やすなどというありえない目標を立てています。そのため当局が、本市の急患診療センターと保健所5ヵ所の急患診療所における小児診療を廃止し、夜間・休日の急患を新こども病院に一本化することを検討し、新病院の患者増加見込みに含めていることが明らかになりましたが、本市の子ども20万人の命を救う急患診療体制をも壊すような大問題を市民にも議会にも隠れて検討することは許されません。そうでもしなければ成り立たないような計画は白紙に戻すしかないのであります。さらに、個室の有料化で患者負担を増やし、職員の人件費もカットすることなどが計画されていますが、これのどこが21世紀にふさわしい病院でしょうか。毎年の赤字は17億円どころか何倍にも膨らむのは避けられません。その先にあるのは医療水準の切り下げ、そして民営化を企んでいるのではありませんか。新病院構想は、人工島だからこそ過大な規模にならざるを得ず、収支計画も机上の空論、破たんするのは必至であり、その結果、公立病院としての役割が投げ捨てられようとしているのであります。
わが党は以上4つの問題点をあげ、こども病院の人工島移転はなんの道理もないことを質しましたが、市長の答弁は、今後検討していくが人工島という場所だけは変えられないと固執する異常なもので、まったく市民の納得を得られるものではありませんでした。道理のないこども病院の人工島移転はきっぱり中止する以外にないのであります。
次に、市民の声を聞かない市長の態度はまったく不当だということであります。
吉田市長は住民投票が必要ないとする理由の一つに、市民に説明し意見を聞いたことをあげていますが、この間の市長の態度はただ一方的に説明して、市民の意見を聞いたという「ポーズ」だけ、ただの帳面消しに過ぎなかったのであります。昨年の「検証・検討」における市民意見募集では人工島移転に反対する意見が圧倒的多数でした。整備場所について諮問しなかった病院事業運営審議会からも答申で「再検討すべきとの意見があった」と指摘されました。市が開いた市民説明会および患者家族説明会では激しい反対意見が続出しました。
とくに、患者家族のみなさんは「重い病気の子どもたちを切り捨てるのか」「子どもたちの命を救ってください」など、悲痛な叫びをあげています。こども病院の人工島移転に反対する署名は総計18万人以上に達するなど、かつてない規模の反対運動が展開されています。このように、こども病院の人工島移転について、市民は繰り返し反対の声をあげてきましたが、市長はこれをことごとく無視し続けてきたのであります。とりわけ、現場で子どもの命を守るために日夜ご尽力されている小児科医・産婦人科医のみなさんが、人工島移転には協力できないと反対を表明し、小児科医会が「人工島への移転計画は、将来の子どもたちのためにならない」と、今月ついに反対決議をあげるに至ったことは極めて重大であります。こども病院が守るべき子どもたちとその家族、こども病院が連携すべき専門医師の多数が声を大にして反対している人工島移転を強行することがどうして許されるでしょうか。
吉田市長は一昨年の市長選挙で、「市民の手から遠く離れたところで何もかも決まってしまう」と山崎前市長の市政運営を批判していました。そして「聞く耳を、聞く心を持たない市政はもう終わりにしよう」と訴えていました。市長は昨日の答弁で、患者家族である2人の請求代表者の意見陳述に対して、「心の叫びであるということはしっかり受けとめております。2人の気持ちは痛いほど分かります」と、あたかも気持ちに寄り添い、理解を示すような素振りをしましたが、それは口先だけで、人工島移転を推進すると繰り返しました。吉田市長。あなたの態度はまさに偽善だ。患者家族の切なる願いをこれでもかと踏みにじる、あまりにもひどいではありませんか。
さらに、市長は、議会で議決されたから住民投票は必要ないなどと言われますが、反対請願を継続審議とした議会の意思を無視して9月議会に議案を提出し各会派に可決を迫って、強引に議決を得たのであって、これをもって正当化しようという態度はまさに傲慢極まりないと言わねばなりません。市民の声を無視し続ける吉田市長に一片の正当性もなく、わが党は厳しく糾弾するものであります。
最後に、今日、住民自治の発展、市民の市政参加は、地方自治体と地方議会の重要課題であります。市議会として、市民の直接請求を真摯に受けとめ、その切なる願いである住民投票を実現することこそ、求められております。しかるに、委員長報告のとおり、昨日の第2委員会で、自民党、公明党、民主・市民クラブ、みらい福岡が、住民投票は必要ないとの吉田市長に従い、条例案に反対し、否決を決めましたが、これは市民の願いを踏みにじるものであります。
そもそも、自民、公明、民主などが当初から一貫してムダな大型開発である人工島事業を推進し、その破たん救済への巨額の税金投入に賛成してきた責任は重大です。博多港開発を救済するための市立病院の統合移転をいったん決めたのも、これら推進勢力であります。それに対して市民がノーの審判を下したのが一昨年の市長選挙であり、そこで民意は明確に示されたのであります。こども病院の人工島移転が打ち出されたのは前回市議選の後であり、現在の議会構成はこの問題についての民意を反映したものとは言えません。したがって、議会として、こども病院の人工島移転についての民意を確認するという点から見ても、住民投票を実施して市民に直接是非を問うべきであります。
わが党は、市政の大事な問題は住民自らが決めるという住民自治の立場からも、市民から直接請求されたこども病院の人工島移転の是非を問う住民投票の実施を求めるものであります。
以上、こども病院の人工島移転の白紙撤回を求め、住民投票条例の制定に賛成する理由を述べてきましたが、今回市長と推進勢力が住民投票条例案を否決したとしても、こども病院の人工島移転に反対する市民の世論は一層高まり、いずれ厳しい審判が下されることを確信して、わが党の賛成討論を終わります。