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2005年4月臨時議会
人工島住民投票条例案に対する日本共産党の賛成討論
私は、日本共産党市議団を代表して、本臨時議会に提案されている議案第197号、人工島建設事業の継続について賛否を問う福岡市住民投票条例案に賛成し、討論を行います。
本条例案は、人工島事業の継続について賛否を問う住民投票の実施を定めるものであります。市民が地方自治法の規定に従って8万4015人の署名を集めて請求を行い、選挙管理委員会の審査を経て要件の3.5倍の7万6922人の有効署名をもって条例制定の直接請求を行いました。これを受け、本臨時議会が招集されたのであります。
本条例案に対し、山崎市長は、人工島事業が本市の将来にとって必要不可欠だということ、市民に説明し意見を聞くなど市民参加を図ってきたということ、議会で審議し議決を得て進めてきたことの3つの理由を挙げて、住民投票条例を制定する必要がないとの意見を表明しました。住民投票の実施を求めたわが党の議案質疑に対しても拒否する答弁を行ったのであります。そこで、わが党が人工島・住民投票条例の制定に賛成する理由と、市長意見に対するわが党の見解を明らかにしておきます。
その第1は、人工島事業を続ける必要性がないという問題です。
条例案は、その第1条で、「人工島事業の継続が福岡市の行財政と市民生活に重大な影響を及ぼすことから、人工島建設事業の継続について市民の意思を明らかにし、もって市政の民主的かつ健全な運営を図ることを目的とする」と述べています。
当初の総事業費4600億円、約401ヘクタールを埋め立てる人工島事業は、着工後10年を経た現在、約半分の進捗率です。ところが、いまだもって人工島に何ができるのか全く見えず、実現性もないというのが実態であります。それでも市長は何が何でも事業を継続しようとしています。
そこでまず、人工島東半分の都市機能用地の必要性についてです。もともとあった九大移転と学園研究都市計画がなくなり、1993年の免許出願時はサイエンスパークを核としたまちづくりの計画でしたが、2002年の新事業計画では大規模公園が導入され、住宅用地と産業用地へと変わってきました。このように土地利用計画が転々と変わるのは必要性がないからに他なりません。また博多港開発株式会社が2002年に1工区を竣工したものの、土地需要がなく、広大な土地が売れ残る事態となっており、さらに今回地震によって埋立地の危険性が露呈し地価下落も予想されていますが、住宅用地も産業用地も需要のない土地をこれ以上造成する必要はありません。それでも埋め立てを続けるのは、銀行、ゼネコン、マリコンの利益保障のために他なりません。
2つめに、人工島西半分の港湾施設と関連用地などについても、博多港の入港船舶の実績と傾向を見れば、これ以上の港づくりの必要がないことは明白です。市長は3万トン以上の大型船が人工島に一度も着岸したことがないことを知らなかったと認めましたが、知らずに埋め立てが必要だというのは無責任極まりないものです。博多港に入港するコンテナ船で増えているのは2万トン以下の小型船であり、大型船は減少しています。こうした状況で水深15メートルの航路と2つの岸壁を造る必要はなく、全くの過剰投資であり、今ある埠頭の再整備などによる対応を考えることがまず必要であって、330億円もの国費のムダづかいはやめるべきであります。
3つめに、人工島の破たん救済に税金が投入されている問題です。巨額の税金投入が市財政を圧迫し、生活関連予算がいっそう削減されようとしています。そもそも計画当初、人工島事業は独立採算の事業であって税金は使いませんというのが市の説明でした。ところが市長は、この市民との約束を勝手に破り捨て、博多港開発の破たん救済に2000億円を超す税金・公金を投入する新事業計画を決めました。そして売れない土地の買い上げ、道路や下水道などインフラの肩代わり整備、増資と緊急融資、住宅供給公社による土地購入など、これまでに337億円がつぎ込まれました。さらに今後、用地購入や鉄軌道導入、市立病院統合移転、新中華街構想など少なくとも1300億円の税金投入が考えられるのであります。また市工区は、新たに直轄化した5工区を含めて埋立事業に今後1238億円を投資する計画ですが、この借金を返済できる保障はなく、穴埋めとして税金・公金投入は必至であります。本市の財政は、2兆6800億円の借金を抱え、市民にそのツケが回されているのであります。その具体化が市民負担増と福祉切り捨ての「財政健全化プラン」です。これまでにも敬老無料パスの縮小、老人医療費助成制度の削減、生活保護の福祉見舞金廃止、国保料の連続値上げ、教育予算の連続削減、公立保育所民営化などを強行してきましたが、今年度から家庭ごみ有料化や下水道料金値上げ、敬老金カットなど市民に犠牲が押し付けられようとしています。市民は税金を人工島にではなく暮らし、福祉、教育の充実にこそ生かしてほしいと訴えているのであります。
4つめに、人工島建設による自然環境の破壊についてです。
1992年の環境アセスメントでは多くの市民が反対意見をあげ、また国際水禽湿地調査局や世界自然保護基金日本委員会、日本鳥類学会など国内外の環境保護団体から福岡市長に人工島中止を求める声明が出され、さらに12万人の人工島計画見直しと博多湾のラムサール条約登録湿地への指定を求める請願署名が提出されましたが、ことごとく無視されました。当時の福岡県知事は重大な環境影響を及ぼすと意見書を出したにもかかわらず、福岡市は埋め立てを強行着工しました。そして山崎市長も事業を続け、博多湾の自然環境、貴重な和白干潟は破壊され、水鳥は事業開始前から1万羽以上も激減しました。まさに市民が心配していた通りになったのであります。いっそうの環境破壊が危惧される埋立事業を続ける必要性はありません。
5つめに、人工島事業をめぐる汚職腐敗の問題です。
10億円のムダづかいと利権あさりのケヤキ庭石事件は、数億円もの裏金が自民党の政治家に流れ、共謀した市幹部が謝礼を受け取っていたことが発覚し、裁判が続いていますが、事件の真相は解明されておりません。志岐元社長と西田元市議の被告2人が無罪を主張する状況に市民の怒りはいっそう高まっています。こうした重大な汚職腐敗についてまともな点検も調査もないまま、税金を食い物にする政・官・業の癒着を放置し、人工島事業を続けることは許されません。ケヤキ庭石事件は氷山の一角、人工島事業を続ければ第2、第3のケヤキ庭石事件が起きるとさえも指摘されています。この事件によって市民は人工島事業にいっそう不信を募らせたのであります。
以上のように、市長の方針通り人工島事業を継続すれば、取り返しのつかない事態となるのは目に見えています。逆に中止すればどうなるか。質疑で原田議員が指摘したように、今後の埋め立てなどに係る市と国の事業費合わせて1568億円を投資する必要はなくなります。国の補助金についても返還の必要がないことが明らかになりました。また破たん救済の1300億円もの税金投入も避けられます。そうすれば暮らしや福祉を充実し、被災者の生活再建や防災対策のためにも税金を生かすことができるのであります。だからこそ、今、この人工島事業の継続について市民の意思を明らかにする必要があるのであります。
第2は、住民投票の実施は必要ないとの市長の意見に道理も正当性もないことであります。
市長は、「市民の意見を聞いて進めてきた」と言いますが、大規模事業点検でも市政経営戦略プランのパブリックコメントでも、市民の意見は聞くだけで何らの計画変更も行っておりません。市民の意見は無視する一方で、銀行の要求に屈して新事業計画の策定や埋め立て事業の直轄化までしてきたのであります。そうした態度に市民の怒りの声があがっていることを市長は認識すべきであります。
そもそも山崎市長は、大規模事業の見直しを公約して市長に就任したにもかかわらず、その公約に違反して人工島事業の継続を決め、いまや全身全霊を傾けて事業を推進しているのであります。市民は7年前の市長選挙で人工島中止の意思表示をしたはずだったのに、それが裏切られたと感じているからこそ、住民投票による意思表示を強く求めているのであります。それを避けて住民投票が必要ないというのは、人工島事業について市民の賛成を得られる自信がないということに他なりません。
また市長は、「議会の議決を得て進めてきた」とも説明していますが、問題はその議会が、人工島問題について市民の民意を反映しているのかということです。先の選挙で人工島を推進する与党会派のいったいどれだけの議員が人工島に対する自らの立場を有権者に示して審判を仰いだのでしょうか。人工島問題に触れることを避けたのが実態です。そうした選挙の結果をもって、有権者が人工島推進を信任したとは決して言えないのであります。そして、議会の議決が市民の思いと食い違っているからこそ、住民投票を実施してほしいという世論が大きく広がっているのであります。
さらに「住民投票は二者択一しかできないデメリットがある」などと言いますが、市長が推進する埋め立てや破たん救済など人工島事業を続けることに対して賛成か反対かの選択肢以外あり得ないのであります。
市長は昨日「自治都市ということと住民投票とは関係ない」と驚くべき答弁をされました。このことは、市長が言う自治とは住民自治を認めないという強権的政治姿勢の現われであります。「市民の意見も聞こうとしない市長なら辞めてもらいたい」という声があがっており、今後、市民の怒りと批判の世論が高まることになるでしょう。
第3は、今こそ、人工島事業に対する市民の意思を明らかにする住民投票を行う必要があるということであります。
市長は昨日の答弁で、これまでの選挙で人工島事業が争点になっていたと述べられました。また市民の大半が人工島に賛成しているとも言われました。しかし市民は、人工島事業が巨額の税金投入によって推進されることについて賛否を表明したことはありません。市政の主権者である市民の民意を改めて確認する必要があります。市民参加というなら住民投票こそが最大の市民参加です。
何よりも、8万4000の直接請求署名に代表される圧倒的多数の市民が、住民投票の実施を求めています。この市民の願いに応えて住民投票を実施するのが市長と議会の当然の責任であります。住民投票の実施を求める市民は8万4000にとどまらず、圧倒的な世論となっています。それは市長と与党議員の支持者を含めて幅広く広がっています。昨日の本会議の傍聴に第2会場にも入りきらない300人もの市民が詰めかけたことも、住民投票を求める世論の大きさを示すものです。この署名に込められた市民の願いの重みをどう受けとめるかという政治姿勢が問われています。市民の願いに応えて、住民投票条例案を成立させ、住民投票を早期に実施すべきであります。
第4に、住民投票の実施が、福岡市における住民自治と民主主義の発展に大きく貢献することです。
住民投票はとくにアメリカやドイツ、スイスなどで歴史が古く、住民の自己決定手段として活発に実施されていますが、日本でも、1996年の新潟県巻町の原発建設をめぐる住民投票に始まり、97年岐阜県御嵩町の産廃処分場建設、沖縄県名護市の基地建設、2000年徳島市の吉野川可動堰建設などで住民投票が行われ、さらに市町村合併をめぐる住民投票を含めて全国350自治体で実施され、まさに時代の流れとなっています。2000年10月の地方制度調査会の「地方分権時代の住民自治制度のあり方及び地方税財源の充実確保に関する答申」は、「複雑化した現代社会において、多様な住民のニーズをより適切に地方公共団体の行政運営に反映させるためには、代表民主制を補完する意味で、直接民主制的な手法を導入することも必要」「住民投票も、こうした観点から行われているものと考えられるが、住民が投票によりその意思を直接表明するという住民投票の制度化の検討は、住民自治の充実を図るという観点から、重要な課題である」と述べています。住民投票は、住民の切実な意思と要求を直接地方政治に反映するうえで有意義であり、憲法が保障する地方自治の新しい発展であります。
言うまでもなく市政は市民のためにあります。市民は納税者として、また主権者として、税金がどのように使われるのか知る権利があるし、賛否を意思表示する資格があります。自分たちのまちの大事なことは自分たちで決めるという住民投票の実施は、市民の自治意識を高め、福岡市に新たな民主主義を根付かせるのは間違いありません。今回の条例制定の直接請求運動は、その重要な一歩を踏み出したものとして、福岡市政の歴史に残るものであります。
最後に、1998年、住民が起こした人工島事業公金支出差し止め請求の地裁判決は、福岡市が市民の「意見に真摯に耳を傾ける姿勢に欠ける嫌いがなかったとはいえないのである」「本件整備事業を抜本的に見直すということさえ一つの政治的な決断」と指摘しております。この際、この立場に立った人工島事業の抜本的見直しが求められているのであります。
しかるに、委員長報告の通り、昨日の第3委員会で、自民党、公明党、みらい福岡ならびに民主市民クラブが条例案に反対を表明しましたが、これは市民多数の世論を踏みにじるものであります。請求代表者が口頭陳述で述べられたことこそが市民の切なる願いであり、わが党は改めて住民投票条例の制定を強く求めるものであります。
以上、人工島事業の継続の賛否を市民に問う住民投票の実施を求め、条例の制定に賛成する理由を述べてきましたが、市長と与党会派が住民投票条例案を否決したとしても、8万4000の署名に込められた市民の願いを消し去ることはできないのであり、いっそう世論が高まることを確信して、わが党の賛成討論を終わるものです。