2011年5月27日
高島市長のこども病院の人工島移転決定に抗議する
日本共産党福岡市議団
(1)
福岡市の高島宗一郎市長は24日の記者会見で、こども病院を人工島へ移転させると発表した。これは、吉田前市長の移転計画と本質的に同じものである。日本共産党市議団は、こども病院が人工島に移転すれば子どもの命を守る役割を果たせなくなることなどを追及し一貫して反対してきた立場から、人工島移転を決定した高島市長に対し断固抗議するものである。
高島市長は、こども病院の人工島移転を決定した理由として、高度医療のためには広い敷地が必要なこと、人工島移転が短期間で可能なこと、「こども病院移転計画調査委員会」の報告書で指摘された防災面などの問題点について技術的に解決できること、西部地域の小児医療空洞化の懸念に応えるため現在地に地域医療を担う新たな小児科をつくること、などを説明した。しかしながら、これらの説明は市民の疑問に答えるものになっておらず、新たな問題をも生じさせるものである。
(2)
市長はこども病院移転計画について、選挙で「全面的な見直し」を公約したが、結局、市民の期待に反して、前市長時代の既定方針である「新病院基本構想」を何一つ見直そうとしなかったことが一番の問題である。
市長が人工島移転の理由として挙げた敷地面積や工事期間の前提となっているのは、前市長が人工島移転のために策定した「新病院基本構想」である。これは、福岡県からもいまだ認可されていない260床、延べ床面積2万6千㎡、駐車場400台分など、こども病院の規模を現在よりかなり大きくする内容である。過大な病院をつくる「新病院基本構想」を前提にしたため、現地建替えや近隣地である当仁中跡地が面積などを理由に整備場所から除外されたが、これはまったく不当である。
しかも「新病院基本構想」の土台は、現地建替え試算の1.5倍水増しなど、前市長時代の人工島先にありきの「検証・検討」の結果である。今回の調査委員会においては1.5倍問題について「説明責任を果たせない意思決定ということであり、手続き上問題があった」と市に猛省を促し、決定過程の全体についても「妥当性がない」という様々な意見が出された。こうした調査委員会を受けて市長がしなければならなかったのは「新病院基本構想」の撤回と抜本的見直しに他ならない。
わが党は「新病院基本構想」を白紙撤回して、現地建替えを可能にする適正規模の病院について調査、検証するよう再三求め、調査委員会の報告書が出された後にも市長に申し入れを行ってきた。しかし、市長は既定方針にとらわれ、何一つ変更しなかった。これは明白な公約違反である。
「新病院基本構想」にしがみつく市長の姿勢は無責任である。「現在地での新たな小児科」と役割分担をするというのであれば、人工島の新病院は病床数も患者数見込みも減らさざるを得ない。当然収支計画も見直すことになる。にもかかわらず、市長は整備計画に変更がないとして中断していたPFI事業者選定作業を再開するよう病院機構に指示した。このまま新病院をつくれば赤字が膨らみ、経営破たんに陥るのは必至である。
(3)
人工島が大地震など災害に弱く、こども病院の立地場所として問題があるという市民の疑問は当然だが、市長の説明は極めて不十分である。
とくに、宮城県立こども病院院長の林委員が調査委員会で、東日本大震災の際、病院建物は免震構造のため被害を受けなかったものの、電源が確保できずに呼吸器停止など危機的状況に直面したことを報告し、「大災害においても通常の診療が維持される必要がある。その点から考慮すると、アイランドシティは、もっとも弱い場所であり、孤立化する可能性がある」と発言したことに注目が集まっている。人工島で液状化被害が起きないという科学的根拠は示されておらず、電力をはじめライフラインが寸断し、病院が「孤立化」する危険性が最も高いと言わなければならない。ところが市長は学者数人から聞き取りをした程度で「防災面に問題なし」と判断した。子どもの命に関わる大問題であるにもかかわらず、まともな科学的根拠も示さない市長の態度は許されない。
(4)
こども病院にわが子の命を託している患者家族のみなさんは、人工島移転によって市内の小児救急医療の配置バランスが崩れてしまい、とくに西部地域の患者にとって救急搬送でも通院でもリスクが高まり、子どもの命が危険にさらされることを強く心配している。今回、市長と市医師会長は「現病院跡地に成人病センターを移転し、小児科を新設して地域医療を担う」という計画を発表したが、これが果たして患者家族の心配に応えるものになるのか、そもそも実現可能なのか、今後新たな大問題になると言わなければならない。
市長は「こども病院の地域医療は現在地で維持する」などと説明しているが、現在こども病院が持っている新生児集中治療管理室(NICU)など高度専門小児医療機能が「跡地につくる新小児科」で継続される保証は何もない。医療圏によってベッド数の上限が決まっており、小児科の新設が許可される保証もない。また、深刻な小児科医師不足のもと医師が確保できる見通しもないが、市長はこども病院の医師、看護師などスタッフはすべて人工島の新病院へ移し、「新小児科」に対して人的支援をしない態度を示した。すなわち「新小児科」は実態も分からない構想にすぎず、こども病院の代わりにはなり得ないのは明白である。
この「新小児科」によってこども病院が担ってきた地域医療が維持されるかのような市長の説明は、前市長が「移転後の西部地域の医療体制について小児二次医療連絡協議会で検討している」と言い訳していたのと瓜二つであり、まったくの欺瞞、市民を誤魔化そうとする姑息な態度に他ならない。
(5)
市長の「独断」ぶりも異常である。市民の関心が高い問題にも関わらず、文書も配布せずフリップ一枚という異例の記者会見を行い、極めて不十分な説明に終始した様子を見れば、市長が調査委員会の検討と報告書の内容を慎重に吟味したとは到底思えない。市長が市の内部で決定内容を図ったのは記者会見直前の会議で、わずか15分で打ち切った。調査委員会はこれまでの市のやり方について「市役所内部のみで行い、この過程を真摯に市民に説明し、理解を得ようとする姿勢に欠けていた」「市として重要な意思決定を行っていく際、確固とした体制ができていたのか、チェック体制は十分だったのか、各局の連携は十分に取れていたのか」と厳しく指摘したが、今回の市長によるトップダウンの決定はこうした指摘を完全に無視したものである。さらに、市長が市内部の調整さえ無視して強引に決定を発表したため、大事な問題が先送りされ、今後混乱が生じることは避けられない。
(6)
こども病院の人工島移転が三度決定されたことに市民から「市長が変わっても結局人工島か」と落胆と怒りの声があがっている。市長は「ていねいに説明していく」と言っているが、「市民に説明したけど結論を押し付けるだけ」というのでは前市長と同じである。「共感」などというなら、住民説明会や市民アンケート、住民投票などを実施し、市民の納得が得られなければ即座に断念するのが筋である。市長がどんなに人工島移転を強行しようとしても、総計30万筆超の署名にこめられた市民の切なる願いを押しつぶすことはできない。
市長と、自民党、公明党、民主党など「オール与党」勢力が、人工島事業の推進に躍起になり、破たん救済のためにムダな税金を注ぎ込んできた。こども病院の移転によって人工島の付加価値を引き上げ、地元財界と銀行の利益を守ろうという意図は明白である。人工島最優先の市政こそ元凶である。わが党は市議会内外で推進勢力を徹底して追及していくものである。
日本共産党は引き続き市民と共同して、人工島移転の中止と、現地建替えまたは近隣地での整備を求めて全力をあげて奮闘する決意である。
以上